ユニクロ「柳井正氏に頼らない」仕組み化の中身 熱意だけでは従業員を変えることはできない
確かに、かつては違いました。店舗スタッフはそこまで考える必要はありませんでした。チェーンストアとして目標を掲げて号令をかけ、それを各地域、店舗で実行することで変革が起き、均質なオペレーションが生み出されていました。
このチェーンストア経営によりユニクロは順調に成長をとげていました。しかし、一方で、「これは本当にお客さまのためなのか」という議論がありました。
全世界で均質のサービスは不可欠ですが、東京に限定しても、都心の店舗と郊外の店舗で同じものが求められているのかと考えると、やはり違いました。都心と地方でしたらなおさらですね。生活スタイルも違えば気候も違うわけですから、当たり前です。
そこでつくった新しい仕組みが2014年3月に打ち出された「究極の個店経営」です。全世界共通のチェーンストアオペレーションの土台の強みを生かしつつも、各店舗が地域に根ざして地域のお客さまに愛される一番店を目指します。ほかのどこにもない「個店」をつくるのです。
少子高齢化の成熟市場日本で店舗数を拡大するのが現実的でない中、売り上げを伸ばすには一店舗当たりの売り上げを伸ばすしかありません。そのためには、地域ごとのニーズを深掘りした店に変えていかないと、お客さまの本当の意味での支持を得られない危機感がありました。
「究極の個店経営」の主役は店舗スタッフ
柳井さんは、「究極の個店経営」の主役は店舗スタッフと位置づけています。地域に根ざした店舗を目指すとなると、店長のみならずスタッフひとりひとりが地域に深く入り込まなければいけません。ただ本部から言われたことをきっちり実行するだけでは実現できないからです。
自分の頭で「より地域に合った売り場とは何か」「お客さまの期待に応える、あるいはそれを超えるためにはどんなことをするべきか」を経営者のマインドを持って考えなければいけません。
自分の働いている地域に合わせて、考える。究極の個店経営とは単なるお店の売り場の方針転換ではなく、働いている人たちに変革を促す、マインドを変化させる仕組みなのです。
もちろん、会社として方針を大きく転換させて、「これからは自分で究極の個店を目指してください」と言われてもそれですぐに実行に移せるわけではありません。戸惑う人も少なくないでしょう。
そもそも「個店経営」自体は珍しい発想ではありません。コンビニや総合スーパー(GMS)の一部にも2010年代中ごろから「個店経営」を目指す動きがありました。本部主導で、標準化された店舗を多店舗展開し、企業として成長を図る。そうしたチェーンストアの考え方をベースにしながらも店舗の役割を重視した組織運営を目指しています。
本部は企画立案機能を担って店舗がそれを実行する役割を担いますが、店舗は本部の指示通りにひたすら実行するのではなく、あくまでも店舗それぞれの商圏や顧客の特性、競合状況などに応じて、店舗ごとに動的に品ぞろえや売り場づくりを行う。ユニクロの「究極の個店経営」と重なります。
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