FIREと個人消費(需要動向)を議論する場合、前述したFIRE後の消費額よりも「FIREを目指す過程における節約志向」のほうが大きいかもしれない。
最近では「NISA貧乏」という言葉も注目されているが、投資熱が高まり過ぎると「消費から投資へ」の動きによって個人消費が抑制される可能性がある 。仮に、多くの人がFIREを目指すような社会になる場合、節約志向の広がりは強力なものとなるだろう。
例えば、年収を平均値の460万円として、そこから一定割合を投資に回した場合の資産の変化をシミュレーションすると、22歳から投資をはじめ、年収の20%を投資に充てた場合、45歳時点で資産規模は約3600万円となった。前述したように、運用益でほぼ日本の平均年収を確保できる資産額が1億円程度であることを考えると、この程度の資産規模ではFIRE生活は難しいだろう。
逆に、45歳時点で1億円を上回るために必要な投資額を逆算すると、年収の56%を投資に回さなければならないという結果となる。今回は年収を460万円と仮定したが、賃金カーブは右上がりであり、若いうちは高水準の貯蓄は難しいことを考慮すると、投資に回すべき比率はさらに高くする必要があるだろう。
FIRE願望が日本経済をシュリンクさせる
いずれにせよ、本気でFIREを目指すのであれば、相当程度、消費を切り詰める必要がある。なお、この計算は、利回りを4%と仮定し、ポートフォリオリバランス等によるキャピタルゲインは想定していない点には留意が必要である。
FIREを目指す人が増える社会は、明らかに需要が弱い社会と言え、心配するべきなのは「人手不足」によるインフレ高進ではなく、日本経済全体のパイの縮小ではないだろうか。
なお、日本の勤労者世帯の黒字率(貯蓄率)は2000年代半ばから上昇し、足元では40%近くになっている。いわゆる将来不安によって高まっているという見方が一般的だが、もしかするとFIREを目指して貯蓄を増やしている人がすでに増えているのかもしれない。
金融リテラシーを高めることで「貯蓄から投資へ」を進め、自助による将来不安の解消を進めるべきである――という方向自体に異論はあまりないだろう。しかし、人々がFIREを目指すことで「消費から投資へ」が進んでしまうと、日本経済を縮小させかねない点には注意が必要である。
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