植田和男総裁も9月24日の講演で、「労働市場の動向をみますと、人口動態も反映して追加的な労働供給の余地は限られてきており、構造的に人手不足感は高まりやすくなっています」と述べた。
植田総裁の講演の際には生産年齢人口と就業者数の過去データと今後の見通しが示され、いずれも2040年にかけて減少が見込まれるという説明となっていた。
もっとも、就業者の減少ペースよりも生産年齢人口の減少ペースのほうが速いことについては言及されていない。この予測通りとなれば、2040年までは生産年齢人口の減少による個人消費など需要の減少が大きくなることが予想される。
一方で、就業者数はしばらく相対的に高水準を維持できることになるので、国内の需給バランスを考えると「人手不足」とはならないだろう。
結局のところ、人口が減少し、就業者が減少し、日本経済が縮小する可能性が高いことは事実だが、労働市場が逼迫するニュアンスを含む「人手不足」になるかどうかは需要次第である。
そして、人口減少が続く限りは需要も弱くなる可能性が高いため、デフレ圧力はかかりやすい。むろん、1人当たり消費額が増えたり、外需が増えたりすれば、需要が超過して「人手不足」になることもあるだろう。人口動態とインフレ・デフレを結び付けることそのものに問題があるのである。
かつては「人口減=デフレ」論が支持されていた
先日、石破茂首相のブレーンの一人であると言われているエコノミストの藻谷浩介氏の著書『デフレの正体 経済は「人口の波」で動く』(角川新書、2010年6月9日)についてSNS上で話題になっているのを見かけた。
「人口動態(人口減少)がデフレの要因である」という当時の藻谷氏の主張に対してSNS上では「人手不足なんだからデフレじゃなくてインフレだろう」という議論が交わされていた。
確かに、前述したように人口が減少することが「デフレの正体」と言い切ることはできないと思われるが、「インフレの正体」でもないだろう。当時は人口減少とデフレが深刻な社会問題となっていたことから、人口減少がデフレに寄与するという説明が強く支持されたことは事実である。
このような変化は、「下向きの人口動態」という事象に対して、その時の経済環境によって受け入れられるストーリー(ナラティブ)が変わりうるという良い例のように思われる。人口減少がデフレの原因であるというのもナラティブであり、人手不足によってインフレがもたらされるというのもまたナラティブだろう。どちらも自明ではない。
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