スタートアップは経済成長に寄与しているのか 「GAFAMを日本から生み出す」という幻想を捨てよ

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では、スタートアップに期待されている役割は何なのか。それは、特に驚くべきことではなく、市場に「新たに競争をもたらす」ということである。

競争はイノベーションを生み出す源泉である。つまり、スタートアップ自身が生き残るためにイノベーションを起こす可能性があるし、既存のプレイヤーもスタートアップからの競争のプレッシャーによって、新たなイノベーションを生み出すことが期待されている。ただし、スタートアップは競争をもたらすだけでなく、大企業にとってはイノベーションにおける「分業」のパートナーにもなりうるのだ。この意味では、両者は補完的な関係にあるとも言えるだろう。そうした相互作用を起こすことも期待されているということだ。

競争というファクターが作用する環境を整える

スタートアップ支援を考えるうえで大事なことは、新しく市場に参入する企業への入り口を整えるだけではなく、市場から退出する企業の出口(倒産/廃業/M&Aなど)も整えることである。新しい企業が出てこないのは、市場から退出する企業が少ないから、人も金も技術も市場に流れてこない側面もある。競争というファクターがより作用する環境を整えるのである。

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その視点で考えると、政府がスタートアップに対して創業から5年、10年手取り足取り支援を続ける必要はない。保護的な過剰な支援によって、学習機会や成長への自助努力の機会を奪ってしまい、結果的にスタートアップをゾンビ化とまではいかなくても、政府や自治体による支援に「依存」させてしまうおそれがあるからだ。公的支援は、あくまで創業間もない段階での成長への「足掛かり」となるような支援にとどめ、その後はフェアな競争にさらす必要がある。

また、起業活動は起業家「個人」だけで生まれるものではなく、起業に対する社会的規範や制度によるところも大きい。起業家になりたくない人に起業をしろと言っても起業するはずがないし、家族の理解を得られなければ、起業したくても起業できないこともある。そうした社会的規範は、短期で変わるものでもないので、たとえ「5カ年計画」だとしてもすぐに明確な効果が出ることを期待してはいけない。

スタートアップに対して期待したくなる感情は理解できるが、現実を直視して、地に足をつけた支援を行うことのほうが、結果的には長期的な視点では良い効果を見込めるのではないだろうか。

加藤 雅俊 関西学院大学経済学部教授

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かとう・まさとし / Masatoshi Kato

2008年一橋大学で博士号(商学)取得。一橋大学専任講師などを経て、18年から現職。近年はスタートアップに関する研究に従事。著書に『スタートアップの経済学』(有斐閣)、『スタートアップとは何か』(岩波新書)。

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