「日本の洋上風力発電」に決定的に足りないもの 国主導の海鳥調査による基礎データが圧倒的に不足

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大型猛禽類が近づくと、一斉に飛び立ち、空いっぱいに舞った(写真:風間健太郎准教授)

――カモメの仲間はいっぱいいるじゃないか。なぜそこまでそんなものに気を使わなければいけないの、という人たちには、どのように説明していますか。

私は、人間にとって海鳥がどういう役割を果たしてくれているか、という研究もしています。海鳥は洋上でたくさん魚を食べて陸にあがってフンをする。フンは海由来の栄養分を含んでいるので陸の植生が豊かになるということは知られていました。私は、陸上のフンが雨水などで沿岸海域に流れ込むことで、昆布や海藻の生育もよくなることを発見しました。実際、ウミネコがいる場所では、利尻昆布の収量が増えるというデータもあります。

一見、役に立たない、邪魔だという生物も必ずどこかで何らかの役割を担っています。その役割の多くは、今の価値換算ではたいしたことはなくとも、100年、1000年先の環境の維持のためには不可欠なのです。

――洋上風力先進地の欧州をはじめ、世界で海鳥をはじめとする生きものへの配慮は常識になっていますか。

先進国が加盟する国際機関、OECD(経済協力開発機構)が2024年1月30日に出した報告書「再生可能エネルギー発電施設において生物多様性の保全を中心に据える(Mainstreaming Biodiversity into Renewable Power Infrastructure)」は、「再生可能エネルギーの拡大は、慎重に行わなければ生物多様性を著しく損なう可能性がある」と強調しています。欧州の経済界も再エネが生物多様性の保全を阻害することを危惧し、再エネの運用改善を求めています。

日本はまず、科学的調査で追いつき、環境アセスの方法を改善し、風力発電の運用で工夫していくべきではないでしょうか。

世界の海鳥の個体数は60年間でおよそ3分の1に

洋上風力発電をめぐっては、今後、洋上に浮かぶ構造物に風車を設置する「浮体式」の開発が進むとみられる。環境への配慮についても、特定のプロジェクトによる影響だけでなく、ほかのプロジェクトも考慮した「累積的影響」を見ていく方法の研究も進む。「脱炭素」は待ったなし。私たちは洋上風力にどう向き合えばいいのか。

日本鳥学会会長の綿貫豊・北海道大学名誉教授はこう話す。

「世界の海鳥の個体数は1950年から2010年までの60年間でおよそ3分の1にまで減ったことがわかっています。日本では、2020年の海鳥の個体数をみると、ウミネコで多い時の半分、オオセグロカモメで半分以下に急減しています。場所にもよりますが、日本全体でこの20~30年の間にほぼ半減しているのです。

気候変動の進行を抑止するために温室効果ガスの排出削減は必須で、化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を進めることは重要です。しかし、洋上風力発電の導入拡大は、立地選定や施設を作る前の環境アセスを慎重に行い、事後評価にきっちり取り組んで、運用に役立てていただきたい」

河野 博子 ジャーナリスト

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こうの ひろこ / Hiroko Kono

早稲田大学政治経済学部卒、アメリカ・コーネル大学で修士号(国際開発論)取得。1979年に読売新聞社に入り、社会部次長、ニューヨーク支局長を経て2005年から編集委員。2018年2月退社。地球環境戦略研究機関シニアフェロー。著書に『アメリカの原理主義』(集英社新書)、『里地里山エネルギー』(中公新書ラクレ)など。2021年4月から大正大学客員教授。

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