「日本の洋上風力発電」に決定的に足りないもの 国主導の海鳥調査による基礎データが圧倒的に不足

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――不十分にせよ、日本でも海鳥の調査はされているので、海鳥の衝突回避を念頭に洋上風力をどこに建てるか決めているのではないのですか。

環境省は「海鳥コロニーデータベース」を公開しており、どの種がどこで何羽くらい繁殖しているかを把握し、数年ごとに更新しています。このデータをもとに、種ごとの行動範囲から繁殖地周辺の海鳥の分布を予測することで、洋上風力に対するリスクを地図化した「センシティビティマップ」も公開されています。

しかし、非繁殖期の場合は、どの繁殖地の鳥がどこに渡っているかのデータもありませんし、外国から渡ってくる鳥のデータもほとんどありません。利尻で繁殖しているカモメについては、たまたま私が調査しているので渡りの経路もある程度明らかになっていますが、ほかの地域や種類についてはほとんどわかっていない状態です。

――繁殖期の海鳥についてはデータがあるけれど、繁殖期でない場合はデータがないということですか。

繁殖期についても、環境省が想定している種ごとの行動範囲は狭すぎる可能性があります。カモメは最大40kmくらい飛ぶとされていますが、実際は150km以上、想定の3~4倍遠くまで飛んでいます。

利尻島(星印)で繁殖する2種類のカモメの越冬・渡り中継地と促進区域(候補地含む)が重なる場所(風間健太郎准教授作成)
風間准教授の調査研究拠点・利尻島のカモメ(写真:風間健太郎准教授)

事業者が行う環境アセスメントの技術ガイドも不十分

――事業者が洋上風力発電所を建設する際には、環境影響評価(アセス)を行う流れになっています。その際の環境省の技術ガイドについても、不十分と指摘しています。

想定される海鳥へのリスクが、風車のブレードへの衝突(バードストライク)に限定されているのが問題です。海鳥は風車を回避するために余分なエネルギーを使わなくてはいけない。風車の近くのエサ場を使えなくなり、繁殖成績が悪くなる、という影響もあります。

――促進区域を決める際に洋上海鳥調査の基礎的データが欠如しているという問題に戻りますと、欧州とこれだけ差がついてしまっている。一方で、洋上風力は本格実施に入っている。そうすると、現実問題、どうしたらいいのですか。

まずは、いまからでもモニタリング体制をきちんと作りましょう、と申し上げています。また、情報不足の中で導入を進めるのであれば、建設前だけでなく建設後にもアセスをきちんとやって、予期せぬ影響があった時には風車の稼働を一時停止するとか、部分的に移設や撤去をするとか、そういうことも必要だと思います。欧州でも、建設後に風車を一時稼働停止するなど、事後アセスの結果に応じた柔軟な運用がなされるケースもあります。

北海道の促進区域の近くで、冬場に身を寄せるオオセグロカモメたち(写真:風間健
太郎准教授)
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