近畿日本鉄道の奈良線などで通勤通学の足として活躍する「5800系」は1997年に運用を開始した一般車両だ。
線区別でみると、6両編成が奈良線に5本、大阪線に2本、4両編成が名古屋線に1本と決して大所帯とは言えない。が、近鉄にとどまらず、鉄道各社の車両開発に影響を与えたエポックメイキングな存在と言える。
「居住性と乗車効率を両立」
最大の特徴は、側面の窓を背にしたロングシートと進行方向を向いたクロスシートの両方に自動で転換できる「デュアルシート」を営業列車で初めて本格的に備えた点。4扉車のドア間に2人掛けを3脚ずつ配置した。ロングシート・クロスシートの頭文字をとって「L/Cカー」と呼ばれる。
近鉄がデビュー当時に作成した車両紹介の冊子には、L/Cカー開発の背景について「当社の通勤輸送は、比較的乗車時間の長いターミナルと沿線都市を結ぶ都市間輸送がメインであり、近年の車両数の増加により混雑率も低下しつつあるということから、これからの輸送サービスは、乗り物本来の姿である進行方向に向かって座っていただく座り心地のよいクロスシートの提供が基本であると考えました」と記されている。
そのうえで「しかし、ピーク時には乗降時分短縮のために、立席面積が広くとれて乗車人員が確保でき、スムーズな乗降が可能なロングシートが適しています。そこで、クロスシート配列にもロングシート配列にも転換が可能なシート機構を独自に開発し、通常はクロスシートで、ピーク時にはロングシートとなる居住性と乗車効率を両立させたオールマイティーな4扉車両を製作することとしたものです」と説明する。
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