なぜ子どもの性的虐待は、闇に葬られるのか 親や近親者は必ずしも助けてくれない

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関連する法案に「女性の健康包括支援法」があります。前の国会で廃案になり、今、与野党で協議中とのことですが、ここに性被害治療を明記し、健康保険適用に向けて、全国に普及させることが必要だと思います。

第3に、先ほどお話した民法の除斥期間の問題。さらに、刑法の公訴時効の問題もあります。現在、強姦罪の公訴時効は10年で短かすぎます。性虐待を受けるような子どもは、親に守られていない環境だからこそ、被害に遭うのです。親が法定代理人として権利を行使できるというフィクションを捨てて、子どものときの性被害については、被害者本人が成人するまで時効はストップすべきです。

冤罪の危険については、検察官が証拠不十分なケースは起訴しないことで回避できます。他方、妊娠・出産させられていたり、ビデオが残っていたりという客観証拠があるケースまで、時効で加害者を保護することは正義に反します。

ほかにも被害者に氏名の変更権を認める、加害者に住所を知られないようにするなど、やることはたくさんありますが、まずは「被害者は悪くない」ことを皆が認識するところから始めたいです。

大人たちが目をそらしてはいけない

植田:子どもはひどい性虐待に遭っていても、家族を求めてしまうし、ひとりぼっちになりたくないのです。見えていないたくさんの問題をひとりで抱えて死ぬことばかり考えてしまう。

内閣府男女共同参画局の調査によると、異性から無理やり性交された女性のうち、67%が誰にも相談していません。この調査は子どもだけを対象にしたものではありませんが、子どもの頃の性被害は人格形成の時期であることから、より影響が大きいと言われています。

『子どもの虐待』(西澤哲著、誠信書房)で紹介されている米国国立精神保健研究所の行った臨床研究では、子どもの頃に性的虐待を受けた女性の21.9%に抑うつ症状が見られたのに対し、そうした経験のない女性で抑うつ症状を訴えたのは5.5%にすぎなかった、とあります。海外の研究ですが、日本ではそもそも被害そのものの認知がされておらず、大幅に後れた状態です。

ある女の子は「死にたいと思っているのに、治りたいとは思えない」と言っていました。生きようと思えないまま、何年も声にならない声を出しつつ死にたさをこじらせていく。

大人がこうした問題をなかったことにして、目をそらし続けていることが、結果的に子どもたちに沈黙を強いて、追い込んでいる側面もある。多くの人が現実に目を向けることが、この子たちだけが苦しむ現状を変えていくと感じています。

ひとつ救いがあるかもしれないのは、いろいろな立場の大人が、この問題を知り、状況を変えるために動き始めていることです。今回私が制作したショートフィルムには、英語字幕がついています。英語字幕は、元UNDPのジェンダー専門家の斎藤万里子さんがボランティアでつけてくださいました。

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日本では本当に知られていない子どもの性被害問題は、実は、国際的には大きな関心を集めている人権問題であり、政策課題です。

8月28日、29日には外務省主催の「女性が輝く社会に向けた国際シンポジウム」が開かれ、世界各国から女性政策の重鎮が集まりました。

こういうタイミングに、日本国内の大きな問題を多言語で報じることには意義があります。ビジネスパーソンも、一歩海外へ出れば、安保法制絡みで平和構築や、紛争時の性暴力などについて意見を求められることがあるかもしれません。

治部 れんげ ジャーナリスト

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じぶ れんげ / Renge Jibu

東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。日経BP社、ミシガン大学フルブライト客員研究員などを経て2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、日本ユネスコ国内委員会委員、日本メディア学会ジェンダー研究部会長、など。一橋大学法学部卒、同大学経営学修士課程修了。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館)、『ジェンダーで見るヒットドラマ―韓国、日本、アメリカ、欧州』(光文社)、『きめつけないで! 「女らしさ」「男らしさ」』1~3巻(汐文社)等。

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