なぜ子どもの性的虐待は、闇に葬られるのか 親や近親者は必ずしも助けてくれない
民法158条2項で、未成年者が父、母に対して権利を有するときは、行為能力者となったとき、すなわち成人したときから6カ月を経過するまでの間、時効は完成しない、とされています。つまり、たったの6カ月しか猶予されていないのです。
現実には、親から虐待を受けていた子どもが成人して6カ月の間に権利行使できるか、というと、極めて非現実的です。一定の利益相反関係にある人からの子どものときの被害については、その子が成人したときから時効がスタートするというような保護が必要です。
植田:「助けを求められる体制づくり」は本当に大事だと私も思います。裁判で訴えることができるのは、ずいぶん先のことです。身近な人がちゃんと聞いてあげることで、心の傷はずいぶん癒やされるはずですから。
「言えない」ことで、被害者はどんどん追い詰められていき、「死にたい」「消えたい」と思うようになります。東京都が自殺対策のために行った調査によれば、10代20代女性の3人に2人が性被害を受けており、5人に1人がレイプされた経験があるそうです。
大学構内や渋谷などの繁華街でアンケートを行った結果ですが、興味深いのは、調査場所によらず、回答結果の数字が変わらない、ということ。つまり、街に出ている女の子は遊んでいるから被害に遭いやすい、ということではないのです。
強姦罪で懲役3年は軽すぎる
――性犯罪については、7月初旬に法務省の有識者検討会が、強姦罪等で親告罪規定を撤廃することに加え、厳罰化を求める報告書案を公表しています。どう思われますか。
寺町:確かに現状の刑法では、強姦罪が懲役3年、強盗罪が5年という具合に、主に女性の性的自己決定の価値が法益として軽く扱われている、という問題があります。その意味で法定刑を引き上げることに私は賛成です。
ただ、厳罰化だけでは性犯罪は減らないと思います。むしろ、厳罰化は「性犯罪を許さない」という社会の意志表明と位置づけるのが適切ではないでしょうか。
本当に性犯罪そのものを減らすためには、再犯防止のプログラムが必要です。そもそも、まともな大人同士の関係なら、大声を出したり暴力を振るったりしなければできない性交渉が、真摯な同意に基づくものとは思わないでしょう。それを、自分より力の弱い人に対してやってしまうのは、性欲というより支配欲ではないでしょうか。
戦争や民族紛争では、必ず性暴力が起きます。それは民族浄化という言葉に表れているように、相手の民族に対する支配欲の表れと言えるでしょう。そういう認知の歪みを矯正し自己コントロールを身に付けるプログラムが必要です。
――周囲が「気づかない」「理解しない」問題は、どうしたら変わると思いますか。
植田:取材をして知ったのは、専門家の支援にたどり着ける子は、現状では少数だということです。そこまでいけない子に、身近な人が手を差し伸べることができたら、ずいぶん違うと思います。
たとえば、いつもと様子が極端に違う、何かおかしいと思ったときに、さりげなく声をかけて話を聞くことで、被害を受けた子が少しずつ語ることもあります。被害者は、話してはいけない気持ちと話したい思いの間で揺れているから、話の糸口を作ることは大切です。
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