インドの総選挙は、小選挙区制の微妙なバランスが大きな議席数の変化となって現れる仕組みの上に成り立っている。
多くの先進国で見られるような二大政党制の駆け引きの力のバランスに加えて、インドの場合、二大政党のいずれにも属さない地域政党の動向が多数派を決める際のキャスティングボートの働きをする。さらにこの地域政党内に派閥争いがあり、二大政党のいずれと連合を組むのかがその時々の情勢に応じて揺らぐ。
イデオロギーや政策論争といった普遍的で客観的な価値基準で仲間が決まるのではなく、ちょっとした力関係の変化で大きな雪崩現象が起きやすい構造となっている。
もともと小選挙区制なので「死票」つまり有権者の意向が反映されずに終わってしまう票が多い。大きな議席数の変化として現れた選挙結果であっても、実は有権者が投票行動を決めるさまざまな要素が、まだらの模様の見え方を変化させたに過ぎないこともある。
緊張の中で行われた総選挙
インド人民党が後退したように見えたのは、前回の2019年の選挙で勝ちすぎたからという見方もできる。
インド人民党は核実験を強行するなど「強いインド」を訴え、国威発揚の熱狂で力を伸ばしてきた。
前回の総選挙の直前の2019年2月26日には、バーラーコート空爆があった。イスラム過激派の拠点を破壊するためにインド空軍がパキスタン領内で行ったもので、パキスタンに対する越境空爆は1971年の第三次印パ戦争以来48年ぶりのものであった。
ジャンムー・カシミール州プルワマ県の国道を走行していた治安部隊のバスに爆弾を積んだ乗用車が突っ込む自爆テロが発生し、イスラム過激派組織であるジャイシュ=エ=ムハンマドが犯行声明を出した。
パキスタンは事件に対する一切の関与を否定したが、インドの空軍がプルワマ襲撃事件に対する報復として空爆を実施した。これに対し、パキスタン空軍は自軍機がインド空軍機を撃墜して、パイロットの身柄を確保したと発表した。
総選挙はこうした両国の緊張の空気のなかで行われていた。
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