AWS、KDDIで薫陶受けた「ベンチャー社長」の素顔 3月上場ソラコムがたどった異色の成長の軌跡
AWSとKDDI――。日米の2大企業から薫陶を受けながら成長し、満を持して上場を果たした今、玉川氏は引き続き「スタートアップ」であり続けたいという。「世の中の不合理や社会問題に対し、こういうプロダクトを作ったらみんなが喜んでくれるというピュアなパッションを小さなチームが実現していくところ」に、その魅力を感じているからだ。
一方、IT企業の経営者として自身を「ナナロク世代」と位置づける玉川氏は、世代的な問題意識も持っている。
ナナロク世代とは1976年前後に誕生し、大学に入学したころにウィンドウズ95が登場した世代を指す。同世代の上場企業の経営者としては、メルカリの山田進太郎氏(47)やMIXIの笠原健治氏(48)、マネーフォワードの辻庸介氏(48)、さくらインターネットの田中邦裕氏(46)らが名を連ねている。
「日本ではあらゆるITサービスはアメリカのものを使っていて、最近『デジタル貿易赤字』と言われる。ITや通信の時代に日本発のプロダクトがほとんどないのは、この世代の問題だ。われわれの世代がしっかりと頑張って爪痕を残さないといけない。そういう意味で、日本発だけれど、しっかりグローバルのサービスにしたい」(玉川氏)
海外展開でも会社の「匂い」を捨てない
もっとも、日本のIT企業の多くはグローバル展開の壁にぶつかってきた。創業時から世界的なサービス展開を目指してきたメルカリも、6月にアメリカで大規模な人員削減を行い、現地事業の立て直しを進めている。
その点、ソラコムはすでに売り上げの4割ほどを海外が占める。創業から約2年後に欧米で本格展開を始めた海外事業が順調に伸び始めたのは、ここ2~3年だという。
玉川氏が重視するポイントは2つある。1つが、商品のセールスとマーケティングのローカライズ。料金体系や販促の仕方など、海外の実情に合わせる形で変えていく点が重要だという。もう1つが、逆にローカライズしすぎて自らの強みを失わないようにすることだ。
好例に挙げるのが、北欧発の家具・インテリア雑貨IKEAだ。「IKEAは日本にいっぱいあるが、お店に行ったら若干スウェーデンの匂いがする」(玉川氏)。海外でもこうした「匂い」を維持することが重要になるというわけだ。自社の理念、カルチャーを現地社員にも徹底的に共有して、「安定感が出るようになった」(同)。
ここにきて、創業時は想定していなかった市場の大きな潮流も生まれつつある。2022年にオープンAIがChatGPTを公開したことに端を発する生成AIの普及だ。ソラコムもIoTデータなどについて生成AIを活用して簡単にアプリケーションを作れるサービスを始めており、玉川氏は「IoTと生成AIをど真ん中でやる会社はまだない。本当にイマージングな(発展段階の)エリアだ」と期待する。
スタートアップらしい情熱だけでなく、大企業から学ぶ老獪さも併せ持つソラコム。上場を経て、玉川氏の視線の先に広がるグローバル、AIといった市場でさらなる飛躍を成し遂げることができるのか。日本発ITの巻き返しを図る、「ナナロク」世代の経営者としての真価が試されそうだ。
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