専門家が指摘、福島の廃炉「2051年完了」は無理 宮野廣・原子力学会廃炉委委員長に聞く

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

――国の計画では放射性廃棄物の処分も含め、遅くとも2051年までに廃炉を終えるとされています。

それは無理ではないか。先ほど述べたように、2050年頃までに初号機で燃料デブリの本格的取り出しに着手できればいいほうだと思っている。

それまでに原子炉建屋の周りの囲いをどうするか、取り出しのための装置をどこに据え付け、どこまで自動で進めるのかなど、決めるべきテーマがたくさんある。一生懸命頑張らないと前に進まない。

中途半端に燃料デブリを取り出した場合、単に燃料デブリを移動したに過ぎないことになる。長期保管をするためには密封性を確実にして保管するか、しっかり処理をして放射性廃棄物を分離し長期保管の形態にするか、いずれかの方策を取らなければならない。

――燃料デブリを取り出した後、建屋解体などの作業に着手するタイミングは。

学会の報告書では、すぐに解体に取りかかり、すべてを撤去するケース(即時撤去)、ある程度の時間を置き、放射線量が下がるのを待って取りかかり、一部を残置する方法(部分撤去・安全貯蔵)など、4つのシナリオについて分析している。廃炉の終了時期や放射性廃棄物の発生量はそれぞれ大きく異なる。

時間をかけた場合、放射能の減衰(次第に放射線量が減っていくこと)により、作業が容易になるという利点がある。放射性廃棄物の発生量も少なく抑えることができる。ただし、廃炉完了の時期は、100年先とか200年先といったオーダーになる。

東電任せにせず、国が前面に出るべき

――経済産業省が設置した有識者による「東京電力改革・1F問題委員会」(以下、東電委員会)の「東電改革提言」(2016年12月)では、燃料デブリ取り出しまでに必要な額として8兆円という数字を挙げています。これにはその後の放射性物質の処分費は含まれていません。

現在は東電が経営努力によって廃炉費用を捻出する仕組みとなっているが、廃炉作業がある程度進んだ段階で、国として財源をどうしていくのかを示す必要が出てくるだろう。

燃料デブリの取り出しなど廃炉の作業について、毎年の実施事項のフォローや実施の責任をフォローする仕組みができていない。いつまでにどこまでの作業を誰が実施するのか、そして誰に約束しなければならないのかについて、国はきちんと示すべきだ。

――福島第一原発の廃炉には途方もない年月がかかりそうです。今後の取り組み体制はどうあるべきだとお考えですか。

廃炉のために、1つの会社組織のようなものを作り、東電のみならず、国やメーカー、ゼネコンなどから人を集めるべきだと思う。東電任せにせず、日本全体でもっと積極的に取り組んだほうがいい。そして、廃炉で培った技術を世の中にもっと還元していく仕組みが必要だ。

福島第一原発は、すでに発電所として再活用する計画はなく、発電会社である東電に任せて整備することは適切ではない。国として福島第一原発の土地の利用計画をまとめ、そのうえで廃炉計画を立て、実施する仕組みや組織を作り、取り組むべきだ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事