専門家が指摘、福島の廃炉「2051年完了」は無理 宮野廣・原子力学会廃炉委委員長に聞く
――宮野さんは先ほど、格納容器の上部からの取り出し工法が最も合理的だと指摘されました。実際、作業を進めるうえで留意すべき点は。
前段階の作業として、原子炉建屋の最上階にある作業用フロアで、放射性物質による汚染を取り除かなければならない。格納容器や圧力容器の上部のフタを取り外す作業も必要だ。これらの機器は高濃度の放射性物質で汚染されている。そのため、取り出した後、使用済み燃料プールに入れて水で放射線を遮蔽して除染する。それから格納容器や圧力容器の中にある燃料デブリの取り出し作業に着手する。
その際、水を貯めることができれば安全に取り出し作業ができる。しかし、原発事故で、格納容器や圧力容器のあちこちに穴が空いている。止水がうまくできず、貯められない場合にどうするのか。気中で作業する場合には高放射線量下での作業となる。
いずれにしても、格納容器上部から作業を進めたほうがやりやすい。そのためには、前段階として、使用済み燃料プールに入っている核燃料を先に取り出し、別の場所に移さなければならない。3号機ではすでに取り出しが終わっているが、1、2号機ではまだプール内に原発事故当時からの多数の使用済み燃料が残っている。
膨大な量の放射性廃棄物、その扱いは?
――燃料デブリを取り出しただけでは廃炉は終わりません。その後、建屋など構造物の解体、敷地の除染、取り出した燃料デブリやその他の放射性廃棄物をどこで処分するかという問題が残ります。この問題に関して、宮野さんが委員長を務める、日本原子力学会・福島第一原子力発電所廃炉検討委員会は「国際標準からみた廃棄物管理――廃棄物検討分科会中間報告――」と題した報告書を2020年7月に発表しています。
同報告書では、福島第一原発では燃料デブリおよび、そのほかのさまざまなレベルの放射性廃棄物を合わせた総量が約784万トンにも上るとの試算を明らかにした。その総量は、通常の原発1基(沸騰水型大型炉)の廃炉で発生する総量(レベル1~3放射性廃棄物の合計)の約1300倍にのぼる。これらの廃棄物をどう処理し、どこで最終処分するのかも大きな課題だ。
東電の試算では燃料デブリは約880トン、学会報告の見積もりでは約644トンとなっているが、建屋の解体などで発生する放射性廃棄物の総量ははるかに多い。学会では放射性廃棄物の扱いをどうすべきかについて問題提起した。なお、学会報告書の試算では、汚染された土壌は含まれていない。これらを入れると総量はさらに多くなる。
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