専門家が指摘、福島の廃炉「2051年完了」は無理 宮野廣・原子力学会廃炉委委員長に聞く
――9月17日には、取り出し装置の先端部分に装着されていたカメラなど、4つのカメラのうち2つが映らなくなりました。東電は取り出し装置を格納容器内から引き揚げ、原因を究明することになり、試験的取り出し自体が振り出しに戻った形です。
カメラ自体の問題なのか、あるいは途中のケーブルに何か問題があるのか、原因を特定する必要がある。ただ、燃料デブリをつかみ取る前の段階だったので、装置自体の汚染度合いは比較的低いと見られる。いい経験だと前向きにとらえ、問題点を把握したうえで、今後の作業に役立ててほしい。
――東電が燃料デブリ取り出しなどの廃炉作業を進めるに当たって依拠しているのが、政府が定めた「中長期ロードマップ」です。それに基づき、試験的取り出し着手をもって、「第3期」という本格的な廃炉作業に移行しました。政府の原子力損害賠償・廃炉等支援機構(以下、原賠機構)は、取り出し方法の案を提示するとともに、今後1~2年かけて東電が本格的な取り出しに向けて具体的な設計方針を示すように求めています。
燃料デブリの取り出しについては、溶け落ちて原子炉格納容器の底に貯まっているものを取り出すことが最終的なゴールになる。しかしその前に、格納容器の内部にあり、燃料集合体が収納されていた原子炉圧力容器の中に残っているものを取り出す必要がある。これらのほかに、高温になって飛び散り、格納容器の壁に付着しているものも回収の対象だ。
今、やろうとしている試験的取り出しというのは、格納容器の底に貯まっている燃料デブリを試しに拾い上げてみようというもの。他方で本格的取り出しのやり方は決まっていない。
本格的取り出しともなれば、燃料デブリの塊を取り出さなければならない。本来であれば、原子炉圧力容器や格納容器に水を張ったうえで、それらの上部から装置を入れて取り出すやり方が合理的だ。
本格的取り出し着手は2050年頃
――原賠機構が示した案では、格納容器の上部から取り出す方法のほかに、横から装置を入れる方法も示されています。また、原子炉建屋を新たに「船殻構造体」と呼ぶ構造物で覆い、水に漬けた状態で取り出すという大がかりな「冠水工法」も案として上がっています。
格納容器の横から装置を入れた場合、その上部の圧力容器内に残っているデブリの取り出しをどうするのかという問題がある。格納容器を構造物で覆う方法は前例のない、きわめて大がかりな工事になる。いずれの方法も課題がある。
――原賠機構は東電に、1~2年で具体的な工法の設計作業をするように求めています。果たしていつ頃に本格的な取り出し作業に着手できるのでしょうか。
私自身の見立てでは、最初の号機で本格的な取り出しに着手できるのは早くても2050年頃。準備作業にはそれなりの年月がかかるので、すぐにはできない。2050年あたりをターゲットにして、具体的な方針を示すことが現実的だろう。
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