経済的な豊さと幸福感の関係については、一般に所得が増えると幸福になる(幸福度が上がる)という関係があるが、このような関係が成り立たない例も数多く指摘されており「幸福のパラドクス」と言われている(この論点は以前のコラム「『大谷選手の活躍が誇らしい感覚』と幸せな賃上げ」で紹介した)。
このパラドクスの説明として、幸福感にとっては「準拠集団」に対する「自己」の「相対的評価」が重要であるという指摘がある。
「行きすぎた」資産価格上昇が招く世代間対立
前述した「日銀の利上げを評価した30代」についての考察で言えば、やや遅れて株式投資を始めた人にとっては、その人の運用パフォーマンスが高まるかどうかよりも、他の投資家よりも運用が上手くいっているかどうかが幸福度という観点からは重要かもしれない。
金融危機以降の株式市場の動きを考えると、手元流動性に乏しい若者世代よりも高齢世代の方が運用のパフォーマンスを改善させやすかったことは事実である(もちろん、結果論であるが)。
なお、このような考察をとある投資家に話したところ、「先にリスクを取った人が儲かるのは当たり前のことだからそんなのはワガママだ」という意見をもらった。筆者もそのように思うが、「ずるい」という感情は主観なので、間違っていると言っても仕方がない面もある。
このような世代間対立を意識しているかどうかは不明だが、日銀の氷見野良三副総裁は8月28日の講演で「いわゆるゼロ金利制約に直面していた時代の金融政策の波及については、株価や為替相場や不動産価格といった資産価格の変動による経路の役割もそれなりに大きかったらしいことが窺われる」とし、こう分析した。
「資産価格をめぐる環境は変化し続けているわけですが、その中で、金融緩和の意味合いは変わっていったのか、変わらなかったのか。こうした問題を考えるためには、資産価格のコンテクストと金融政策の機能の仕方の関係について、さらに分析が必要ではないかと思います」
氷見野副総裁が言う「日経平均が8000円台まで低下、ドル円レートは70円台まで円高が進行、東京都区部を含め全国で地価変動率がマイナス、と、おそらく異常といってもいいような状況」から正常化することは、おそらくどの世代にも受け入れやすい。したがって、世代間対立は生じにくいだろう。
しかし、価格上昇が行きすぎて異常になれば、世代間対立のような問題につながる可能性はあるだろう。今回のコラムの問題意識と、氷見野副総裁の指摘はリンクしていると、筆者は考えている。
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