8月下旬には2025年度の台湾政府予算案が行政院(内閣)で閣議決定され、今後立法院での本格審議に入る。好調なマクロ経済状況に伴う税収増も反映して、歳入は前年度比15.7%増の計画で、世界が注目する国防予算も7.7%増の6470億台湾元(約3兆円)と過去最高となる。
もともと野党が多数派を占める国会でスムーズに承認されるか不透明だった。政権与党が民衆党からの協力を得にくくなっているこの状況では、なおのこと審議が難航すると予想される。来年度の国家予算をめぐり、どのような駆け引きや衝突が起きるのか台湾政治の焦点のひとつとなっていくだろう。
アメリカへの「懐疑」で政権の支持減も
もう一つの焦点がアメリカ大統領選だ。
例年予算審議は12月半ばまで行われる。そのため、今年は途中でアメリカ大統領選挙の結果が判明することになる。その結果や選挙中の論戦内容によっては、台湾内部での外交・安全保障政策をめぐる議論にも影響を及ぼしかねない。
台湾の国防予算は過去最高を更新し続けるが、経済成長も続いていることから来年度の国防予算はGDP比2.45%程度にとどまる。これに対して、アメリカでは中国の脅威を念頭に、台湾の国防予算はまだ不足して「生ぬるい」とし、GDP比3~5%にすべきとの主張も出る。
このような台湾への防衛強化を求め続けるアメリカ側の姿勢に対して、台湾社会の一部では「アメリカは中国との対立のために台湾を駒として利用するだけで本当は助けてくれず、見捨てるのではないか」という見方もある。「疑米論」と呼ばれる考え方で、社会の2~3割がこの見方をもっているとされ、アメリカに言われた通りにするだけでは逆に戦争につながると恐れている。
実際は台湾自身や日米の防衛強化で対中抑止が高まり、中国による台湾侵攻へのハードルは高くなり、軍事的な抑止力はむしろ台湾情勢の安定に寄与している。台湾でも与野党が共通して戦争回避に向け、軍事的な対中抑止強化が必要と考えている。
ただ、野党は与党の実績になることを嫌い、国防予算にケチをつけて通さない可能性もある。台湾世論で「疑米論」が広がれば、野党は与党の政府予算案を妨害し、場合によっては進めるべき防衛強化が遅れる可能性も出てくる。すでに7月にはトランプ氏が「台湾はアメリカに防衛費を払え」と発言したインタビューが発表され、台湾社会から懸念の声も出た。
民進党政権が台湾民主政治史で初めて連続3期を迎えたのは対米関係を強化して良好な外交安全保障環境を確保できたからでもある。第3勢力が失速しても、少数与党という構図は変わらない中、民進党は政権の支持につながる主要な政策を内外からの圧力を受けながらも継続できるか、逆に政策が停滞して支持を喪失していくのかが2024年末までの台湾政治の注目ポイントのひとつだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら