なぜ経営陣が不仲な企業が成功できるのか

インテルの創業者3人が織りなす愛憎劇

しかし、対立を嫌い、誰からも好かれようとするという性質は、多かれ少なかれムーアにも共通している。ノイスの死後20年がたっても、グローブがノイスを憎み続けた真の理由は、彼が人間の根底の部分でノイスとそっくりだったことにあった。どちらも極端に大きな自我を持ち、自己顕示欲が強く、スポットライトを浴びるのが好きで、パフォーマンスに長け、主役でなければ気が済まなかった。

ノイスに対する憎悪と敵対心がグローブを偉大な経営者へと押し上げる原動力になったのは間違いない。自分ならノイスがとうていできないような果断な意思決定ができるという強烈な役割意識。風格や存在感においてもいつかはノイスを超えてみせるというモチベーション。それがグローブをカリスマ性に満ちたリーダーへと成長させた。グローブはノイスの鏡だった。だからこそ、これ以上ないほどスムーズに経営のバトンが引き継がれた。

3人が一緒の写真はたった1枚

敵を一切つくらなかったムーアにしても、ノイスやグローブとは仕事以外ではほとんど付き合いをもたなかった。驚くべきことに、インテルの長い歴史の中でも3人を同時に写した写真は1枚しかないという。共通の理念の下に結束したトロイカ体制が会社を率いたという一般的なイメージは、インテルの実像とはまるで異なる。

不協和なトリニティが、不協和だったからこそ生み出せた最高の作品がインテルだった。この意味でインテルは、「多様性がイノベーションを生む」という命題を最も深いレベルで実現した事例といってよい。著者は言う。「インテルは不仲で始まった創業者たちが時間とともに互いへの敬意を深めていった稀有な、そしておそらく二度と再現しないケースだ」。

著者が描き出すトリニティの人間ドラマにおいては、ノイスがカリスマ的な父、グローブが反抗的な息子、ムーアが技術の聖霊として位置づけられる。それは映画『ゴッドファーザー』を髣髴とさせる。重いパーキンソン病に冒され、身体の自由を失ったグローブがノイスに対する真意を吐露するエピローグ。まさに『ゴッドファーザー』を地で行く名場面である。凡百のビジネス・ドキュメントでは絶対に味わえないような感動が胸を打つ。

シリコンバレーで長きに渡って活動してきた著者は、過去30年にインテルについて数百本の記事を書き、ムーアやグローブのみならず、ノイスとも直接やりとりを重ねた最後のジャーナリストという立場にある。著者でなければ本書のような深いコクのあるドラマは描けなかった。労作にして力作、そして掛け値なしの傑作である。

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