なぜ経営陣が不仲な企業が成功できるのか インテルの創業者3人が織りなす愛憎劇
ノイスとムーアとグローブ。3人とも際立って優秀な科学者としてのバックグラウンドを持ち、創業時から経営の中枢にあった。しかし、気質と持ち味はまるで異なる。
ムーアは「科学者」だった。「コンピュータ・チップの性能は18か月ごとに指数関数的に向上する」という「ムーアの法則」を唱えた彼は、徹頭徹尾誠実で地味な学究肌だった。
グローブは「経営者」だった。妥協なく勝利を目指す姿勢を片時も崩さないファイターだった。一方、ノイスは集積回路を発明した一流の科学者であり、フェアチャイルドとインテルというシリコンバレーを代表する半導体メーカーを創業した優秀な経営者でもあった。しかし、それ以上に彼は天性の「リーダー」だった。
ムーアとグローブとノイスのトリニティを描く本書の白眉は、ムーアを挟んだグローブとノイスの複雑な人間関係の記述である。グローブとノイスの関係はインテル創業の当初から緊張をはらんでいた。あっさりいえば、グローブはノイスを嫌悪していた。それは憎悪といってもいいほどだった。
なぜノイスを嫌悪したのか
グローブが出会った頃には、ノイスはすでに生きる伝説となっていた。ノイスは「選ばれし者」だった。ノイスにかかればすべてがたやすいことに思われた。ハンサムなスポーツマンで、女性なら誰もが恋に落ち、何事においても成功するカリスマだった。
そのすべてが、ハンガリー移民としてホロコーストの地獄から這い上がってきたグローブにはしゃくに障った。何より腹立たしかったのは、それでも部下としてノイスの意のままに従わなければならないことだった。
自分のカリスマ性に自覚的だったノイスは、周囲から敬愛されたいという欲求が強く、「ノー」と言えない性格だった。それがあだとなり、彼は非情な決断が苦手だった。自分の手は汚さず、グローブに汚れ仕事を押し付ける面があった。
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