「住宅ローンの頭金は多いほどよい」説のウソ じつは多様な選択肢がある
今回説明した方法で資金繰りと得を両立できると説明したが、期間短縮型のデメリットはゼロではない。返済期間が短くなれば長期で見ればその分だけ資金繰りは悪化する。5年後に繰り上げ返済をするプラン③では30年と5カ月の時点で完済、支払い額はすでに書いたように約4870万円となる。一方、頭金2割の35年ローンとするプラン①ならば、30年5か月後の時点で支払い総額は頭金を含めて約4422万円。差額は約448万円にのぼる(いずれも利息込みの返済額)。
これはつまり、まったく同じ生活を送っていれば手元にある貯金の額が約448万円も違うということだ。短期間で返済をすれば得をするが資金繰りは悪化する。つまり頭金、繰り上げ返済、返済期間と、すべての要素で損得と資金繰りが対立するということなる。
「頭金を減らして5年後に繰り上げ返済すればいい」というアドバイスの真意は、長期間にわたる返済で、住宅購入当初のいちばん苦しいライフプランの波が発生する時期を乗り切るためのテクニックということになる。
頭金を入れすぎることにより、手元の貯金が極端に減ってしまえば資金繰りが悪化して、万が一の時には困ってしまう。住宅を購入するタイミングでは結婚・妊娠・出産・育児休業・時短勤務、初めての子育てなど、生活の変化がいくつもある。結果的に収入・支出が大きくブレる。こういったライフプランの波を乗り越える際に、頼りになるのが手元資金だ。手元におカネがあればもし収入が減っても支出が増えても、そして保育園が見つからずに育休からの復帰が遅れるような事態があっても耐えられる。
筆者は7月29日配信記事「『繰り上げ返済は早いほどよい』に異議あり」で、「住宅ローンは無理に繰り上げ返済をせずに手元に資金を残した方がよいケースがある」と指摘した。じつはこの話は頭金にもまったく同じことがいえる。
なお、今回の記事の趣旨は「貯金が少なくても家を買って大丈夫」という意味ではない。頭金を2割以上入れられる位の余裕がある状態で1割だけ入れて買うと良い、と考えてほしい。
頭金はゼロでもよい?
そんなに資金繰りが重要なら「頭金ゼロでもいいじゃないか?」と感じた人もいるかもしれない。これも状況次第ではアリということになるが、事例で使った全期間固定のフラット35の場合は頭金が1割以下(融資率9割以上)の場合、金利が上がってしまう。2015年8月時点では頭金が1割以上ならば1.58%、1割以下ならば1.71%となる(いずれも最低水準の金融機関の場合)。
現在の金利差はわずか0.13%だが、以前は0.2%~0.3%程度と、もう少し差が大きかった。これは国の補正予算による金利引き下げの最中であることも影響しているため、今後はまた以前のように金利差は拡大するかもしれない。また、金融機関によって頭金の額で金利が変わる場合もある。これについては実際に借入をする金融機関やタイミングによって変わる部分なので、注意されたい。
頭金のチャンスは1回だけはない
今回の記事を読んでも、勤務先が安定しているから資金繰りなんて大丈夫、そんな簡単に給料は減らない、頭金をガッツリ入れて短期間で返済してしまおう……と考える人もいるかもしれない。ただ、筆者は普段から「マーケット・市場で決まるものは自身でコントロールできない」とアドバイスしている。マーケットで決まるものは株価や金利、為替、物価、不動産価格などが思い浮かぶと思うが、給料や雇用もまた「労働市場」で決まる。勤務先の業績も自社の商品やサービスがマーケットで受け入れられるかどうかで決まり、それが従業員の給料や雇用に直結する。
先日は、中国を発端とした世界同時株安が発生した。これはほんの1週間前には誰も予想出来なかった。株にはリスクがあることを今更ながら実感している人も多数いるだろう。リスクは「自分で決められる箇所」でしかコントロールできない。頭金の額を減らして手元にお金を残す事は自分の意思だけで決められるが、自身の給料や雇用は自分の意思だけでコントロールできない。住宅の購入はマーケットのリスクを考慮して、臆病に判断することをオススメしたい。
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