「ブラック研修」を否定しきれない20代男性の本音 研修は朝6時から深夜1時までで、休憩はなし

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――まだ洗脳が解け切れていないようにもみえます。

「そう言われてみると、今も会社に対して『俺、期待にこたえられてない。申し訳ない』と思うこと、多いんですよね。ずっと罪悪感を抱きながら働いてきたというか……。雇ってもらって、残業代までもらってるのに、ちゃんとできていない自分に非があるという罪悪感。これって(研修の)呪いなんですかね」

――悪質会社にとっては都合がよい社員かも。それに残業代は労働者の権利です。

「前の会社で『労働者の権利』なんて言ったら、『社長に対して不届き』と言われそうです。でも、日本の経営者は『期待にこたえられなくて申し訳ありません』という考えの社員を好む人、多いですよ。そういう考えの人のほうがかわいがられるし、うまくいく社会。だからやっぱりあの研修を一概に悪いとは言い切れないんですよね」

第2次世界大戦中の「特攻」と重なった

この日は8月の「終戦の日」の直前だった。取材を終えた数日後、私はテレビで第2次世界大戦中の日本の特攻をテーマにしたドキュメンタリーを観た。番組の中では、特攻への志願を示す「望」「熱望」という文字が記された搭乗員名簿が新資料として紹介された。

持論になるが、私には「特攻隊員たちのおかげで今の日本がある」などという考えはみじんもない。“一億特攻”という常軌を逸したスローガンのもと、当時の若者たちに「特攻を熱望する」などと言わせた組織や社会への嫌悪感があるだけだ。

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国を守りたいという考えは間違っているとまでは言わないが、軍用機や潜水艇で敵艦に体当たりさせる作戦は異様でしかない。そのおぞましさが「周囲の期待にこたえよう」などという価値観を前面に出しながら、新入社員たちを違法な働かせ方にも従うよう洗脳した研修に重なった。ヨウヘイさんに追加取材したいことがあり、メールを送ったときにこの番組のことにも触れてみた。

ヨウヘイさんからはこんな内容の返信があった。

「自分だったら『希望』と書いてしまいそうです。上官に褒められるような人間像を体現しにいくと思います。使う側、使われる側の関係性としては、使う側に都合のよい人間ですね」

ヨウヘイさんが新卒で働いた会社も、研修を実施した会社も、今も変わらず活動を続けている。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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