ロシア領侵攻で高まる世界戦争への発展可能性 ウクライナ戦争はスラブ人同士の問題だ

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2022年3月にスームィは陥落し、一時ロシアに占領されていた地域である。ロシアは開戦当初全面攻撃に出ていたが、これは陽動作戦だった。ウクライナ軍を分散させ、ドンバス防衛を弱体化する作戦であったともいわれている。

もし本格的にこの地域を占領されると、首都防衛は困難となる。だから、逆に防衛的攻撃に出たのだというのである。

一方で、クルスク攻撃は成功したのかどうかという問題が残る。東部戦線では兵力が不足している状況で、この地域に大きな兵力を回せるのかどうか。

また、一気に1000平方キロメートルの広大なロシア地域を占領したものの、それを維持する能力があるのかどうか。そのために武器などの支援物資を運ぶ兵站は維持されているのかどうかといった問題などが、残る。

かつて日本軍がやったように、ひたすら兵士の死を無駄にする万歳作戦のような結果にならないのか。一時的な勝利によって、全体の戦略が見失われるのではないか。

一時的な勝利に酔ってはならない

いずれにしろ問題は、この戦争の落ち着きどころである。戦争を拡大すること自体が目的で、原子力やガス・パイプラインが交渉の隠し球だとすると、世界にとってそれは恐怖だ。

たとえそうでなくとも戦争を拡大することは、世界戦争を惹起し、ロシア側の攻撃の激化を進めるだけである。

私はこの戦争が勃発した頃から、これは中ロ対西欧という構造になるべき問題ではなく、スラブ人の問題であると述べてきた。それは今でも変わらない。

世界の両極が対立する中で、一触即発の危険は増している。それだからこそ、この戦争を世界戦争への引き金にしてはならないのだ。

的場 昭弘 神奈川大学 名誉教授

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まとば・あきひろ / Akihiro Matoba

1952年宮崎県生まれ。慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了、経済学博士。日本を代表するマルクス研究者。著書に『超訳「資本論」』全3巻(祥伝社新書)、『一週間de資本論』(NHK出版)、『マルクスだったらこう考える』『ネオ共産主義論』(以上光文社新書)、『未完のマルクス』(平凡社)、『マルクスに誘われて』『未来のプルードン』(以上亜紀書房)、『資本主義全史』(SB新書)。訳書にカール・マルクス『新訳 共産党宣言』(作品社)、ジャック・アタリ『世界精神マルクス』(藤原書店)、『希望と絶望の世界史』、『「19世紀」でわかる世界史講義』『資本主義がわかる「20世紀」世界史』など多数。

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