これに加え、以下のような非常に興味深いトピックに関して、科学的な実験結果が論じられています。
「学力の高い友だちの中にいると、自分の学力にもプラスの影響がある」
「しつけを受けた人は年収が高い」
「人生を成功に導くうえで重要なことは自制心や、やり抜く力。それらは筋肉を鍛えるように鍛えることができる」
「子どもの教育に時間やおカネをかけるとしたら、いつがいいか」(これは貧困層の幼児と親に学ぶ機会を提供して、同じ条件で選ばれた幼児教育を提供していない貧困家庭の幼児との、40年間にわたる追跡比較調査です。IQ、学歴、所得などで歴然とした差がつきました)。
「『いい先生』に出会うと、人生が変わる。教員免許制度は、能力の高い人が教員になるのを妨げている制度だ」
以上は目からうろこが出た中の一部を、勝手に少し短縮させて頂いて羅列したものです。
もちろん、データ分析とは数多くのデータに最も当てはまる一般性の高い結論が出されるものなので、その法則に当てはまらない個別ケースがたくさんあることには留意しなければなりません。
たとえば結果にご褒美を与えるだけで、自発的にさまざまな方法を試して結果を出す子どももいますし、まったく恵まれていない学習環境や家庭環境、学校であっても、驚くほど頭角を現す子どももいます。ご存じのように、礼節をわきまえずしつけを受けた痕跡がまったくなく、品性と教養のかけらもない億万長者もたくさんいること等などは、「科学的根拠」がなくても「オバサン的経験」から断言できます。
しかしそれでも、これらの「一般性の高い教訓の数々」を、わが子の個性や親自身の個性に応じて選択的に採用していくことで、家庭教育のすばらしい参考になる、「根拠ある教訓」に満ちあふれていました。
「『学力』の経済学」は、実は「育児」の経済学
先日、本書の著者である中室牧子氏と、夕食をご一緒させていただく機会に恵まれました。よくもあのように膨大なデータを、素人にもわかりやすくまとめられましたねと申し上げましたところ、「それが私の仕事ですから」とさり気なく返されました。それほど純粋に、学問的根拠に基づいて著された本ですが、面白く読めるような工夫もふんだんにされており、重要な教訓を楽しみながら得ることができます。また当日お話を伺って感心したのですが、実際はこの本の10倍ほどの分量からそぎ落として、重要な部分が凝縮された、渾身の一冊ということができます。
本書には、「今まで読んだ育児書の中では、いちばん腑に落ちる書だった」という感想がほかからも寄せられていることを知り、納得しました。私の、「オバサン的経験に基づいて著されるコラム」で書いてきた育児経験と整合する部分も多く、経験で感じてきた育児経験に科学的根拠を与えていただいたような、「腑に落ちる」感覚が強かったです。本のタイトルは「学力の経済学」ですが、子どもを抱える親御さんの立場で読めば、「育児の経済学」と言うこともできるでしょう。
私のまずい要約で、中室先生が紹介された科学的根拠まで曖昧になっていないか心配です。それでも自信をもって申し上げられることは、教育政策を経済学的に根拠を持って議論する立場の政策担当者の方々のみならず、ご家庭の教育方針を考えられる上で多くの親御さんにとって貴重な「腑に落ちる教訓」に満ちあふれた一冊だということです。
一連の「育児本レビュー」の中で紹介させていただいた本はどれもが面白いものですが、中でも最もおすすめしたい一冊を上げるならば圧倒的に本書です。これから育児をされる親御さんたちには是非一読されることを、お勧めいたします。
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