米国は日本人の国民感情を逆なでしている 鈍感すぎるのは安倍首相だけではない

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集団的自衛権関連法案は、純粋な軍事的観点から見れば単なるワンステップかもしれない。だが、そうなるかどうかは活動の地理的範囲や内容次第だ。こうした重要な問題を安倍首相が明確化できていない、と国民の8~9割が感じている。

政治的観点から見れば、軍事的なワンステップとは完全に逆なのだ。人はどうしてもメッセージの内容とそれを伝える人間を一緒にして考えてしまう。

集団的自衛権だけではない

関連法案の衆議院採決が行われる数日前、東京でのディナーの席で中年の日本人銀行マンが次のようなことを言っていた。「アベノミクスはとてもうまくいっていると思うけれど、集団的自衛権関連法案を推し進めるために安倍首相が採る横暴な戦術には少し不安を覚える」。

国民の中でアベノミクスを信頼している人間は今や少数派だ。朝日新聞社による6月の世論調査において、安倍首相の経済政策で日本経済の成長が期待できると回答したのは全体の32%にとどまる一方、44%が期待できないと回答している。そして今、安保に対する安倍首相のスタンスは、この少数派の多くも疎外してしまっている。

4月の安倍首相のワシントン訪問の際、日米両政府は集団的自衛権関連法案の可決を見越した新しい防衛協力のガイドラインを発表していた。集団的自衛権関連法案が可決どころか、国会に提出されるはるか前のことだ。日本の主権回復を主張する安倍首相だが、ガイドライン発表は多くの日本国民の目に、民主主義に対する侮辱、そして米政府に対する服従と映った。日米のどちらがガイドライン作成を主導したかについては諸説あるが、通常の手順からは逸脱するものだ。

米政府は、日本に特定の安保政策を採用させようと躍起になるあまり、それが日本国内でどのような政治的反響を生み出すかについて「鈍感」な印象さえ与える。

集団的自衛権だけではない。沖縄米軍基地の辺野古移設には、沖縄県民だけでなく日本国民全体の大多数が反対だと最近の世論調査で示されているにもかかわらず、米政府はいまだに移設に関するあらゆる代替案を拒絶している。こうした日本の国民感情を理解できなければ、米政府の誤算が続く一方だ。

週刊東洋経済8月29日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。著書に『The Contest for Japan's Economic Future: Entrepreneurs vs. Corporate Giants 』(日本語翻訳版発売予定)

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