音楽配信の隆盛でまだまだ変わる音楽産業の未来 人工知能とVR機器が切り拓く音楽体験の未来像
その後、録音技術が生まれると演奏を録音した媒体を販売するようになる。これが”録音原盤事業”で、アナログレコードからCDにかけての”アルバム形式でのパッケージ販売”という事業形態を生み出した。それと同時に録音原盤を、より良い状態で再生するための機器、つまりオーディオ産業が生まれた。
CDが録音原盤の販売・流通を身近なものにすると、音楽産業は急速に伸びたが、ご存じの通り1999年をピークに急速に縮小した。日本ではCD販売が根強く音楽事業の柱であり続けたが、グローバルでのCD売り上げ減少は壊滅的なものだった。
それはCD原盤のデータをMP3技術で圧縮し、ネットで共有するサービスが広がったことが引き金だ。1999年、CDを中心とした物理メディアのパッケージ販売はおよそ220億ドルだったが、10年後の2009年には100億ドルを下回った。
iTunes Storeをはじめとしたダウンロード販売はこの落ち込みを補うことはできず、音楽産業全体としては音楽ライブなど”実演”への回帰が進んだ。実演への回帰は、現在も流れとして大きくなっている。
一方で録音原盤の事業も音楽配信サービスの成長で、以前を超える規模に復活し、さらに伸びようとしている。2022年、録音原盤の販売はグローバルで約286億ドルに達し、前述したCD全盛期の1999年を大きく超えている。
写し鏡の”音楽とオーディオ”
視点を少し変えてみよう。
実演だけでは小さな市場しか生み出せなかった作詞家・作曲家は、出版技術によって楽譜販売による印税を得られるようになった。さらに録音技術によって実演家も、演奏そのものを複製、より多くの人に楽しんでもらえるようになり、音楽は産業へと発展した。
この”録音原盤”をめぐる産業の発展は、写し鏡のように発展と衰退が進み、業態の変容も(少しばかり時間差はあるものの)起きてきた。
アナログレコードとともに急速に伸びたオーディオ市場は、機器そのものの小型・低価格化に加え、ソニーのウォークマンを発端に再生機器のパーソナル化が進んだ。CDの登場で一定水準のオーディオ体験が手軽に得られるようになると、カジュアル市場と高級機市場の両極に分離し、高級オーディオ機器は新規ユーザーを獲得できないまま高齢化が進み、並行してCD販売不振の時代を迎えると、オーディオブランドは、さらに先鋭化して既存ユーザーに迎合せざるを得なくなった。
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