『Made in America』は、80年代にIT分野に登場した新しい企業を批判的な目で見ていた。「大規模で成熟した」企業であるモトローラ、フェアチャイルド、AT&Tなどから有能な技術者が新会社を作って流出してしまうため、アメリカの半導体産業は重大な損害を被ったというのである。そして、それを手助けしたサンフランシスコ地区のベンチャーキャピタルは「禿鷹資本主義」だ、という意見に同意している。さらに、「これら新会社は、ベンチャー資本からの支援を2、3回受けたあと株式を売却してしまう。創業者は億万長者になるが、会社は衰退し技術は遅れる」と、批判している。
仮にアップルがモトローラの下請け企業で携帯電話機を作っていたとしたら、現在のアメリカ経済はなかったのだ。変化の性質を的確に見抜き、未来を予測するのがいかに難しいことかを実感する。
他方で、『Made in America』が称賛した日本の半導体産業は、インテルやサムスンとの競争に敗れて、今や見る影もない。日本の系列システムは、「IT革命」という大きな技術変化に対応できなかったのである。その基本的原因は、系列システムでは、小企業が発展するメカニズムが抑圧されていることだ。
今、クラウドコンピューティングが情報通信技術を大きく変革しようとしている。これは小企業の有利性をさらに顕著なものとする。したがって、小企業が発展する余地がある経済は発展し、そうでない経済が停滞する。アメリカ経済は前者のタイプの経済であるのに対して、系列関係に縛られた日本経済は後者のタイプの経済だ。90年代以降明らかになった日米経済の格差が、さらに拡大する可能性がある。
早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授■1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省(現財務省)入省。72年米イェール大学経済学博士号取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授などを経て、2005年4月より現職。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書は『金融危機の本質は何か』、『「超」整理法』、『1940体制』など多数。(写真:尾形文繁)
(週刊東洋経済2011年11月12日号)
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