弱い日本の強い円 佐々木融著 ~豊富な経験を裏付けに疑問に答え、誤解を解く

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弱い日本の強い円 佐々木融著 ~豊富な経験を裏付けに疑問に答え、誤解を解く

評者 大崎明子 本誌

去る8月4日、財務省は4・5兆円という過去最高の円売りドル買い介入を行った。しかし、わずか3日で相場は元に戻ってしまった。「なぜ介入が効かないのか」について、本書は、具体的なメカニズムに即してわかりやすく解説している。

為替市場に関して、驚くほどの誤った思い込みや神話が一般に流布している。メディアは十分に取材せずに報道し、経済学者ももっともらしく的外れなコメントをすることが多い。たとえば、「経済成長率が高い国の通貨は強いはず」「日本は人口が減っているから円安になる」「震災が起きたのに円高になるのはおかしい」といった諸説。為替が一方向に大きく動くと、すべてが「投機筋の動き」と説明されることなどである。

著者は、介入の実務も含め17年半にわたる豊富な経験を基に、こうした疑問や誤解を解いていく。為替市場は輸出入業者、機関投資家、個人投資家を含むさまざまな立場の人々が参加する巨大な市場だ。著者は短期・中期で為替相場を実際に動かしている市場参加者の動き、資金フローを鮮やかに描いて見せる。

たとえば、「日本の輸出企業は円相場がどのような動きをしようとも、輸出で稼いだ外貨を売却して円に替えなければならず、貿易収支が黒字になれば、自然に円買い要因となる」「日本は世界最大の対外純債権国なので、グローバル経済が何らかの理由でショックを受け、世界中に広がっていた投資資金が出所に戻ってくるとき、円は最も買い戻される通貨になる」など。

為替レートは長期的には物価上昇率の差で決まる。だが、中央銀行が量的緩和策を行っても、ゼロ金利下では効果を発揮しないと主張する。ただ、最後に、異常な金融緩和は遠い将来のリスクとなる点を警告している。時宜を得た一冊である。

ささき・とおる
JPモルガン・チェース銀行マネジングディレクター、債券為替調査部長。1992年上智大学外国語学部卒業、日本銀行入行。調査統計局、国際局為替課、ニューヨーク事務所などを経て、2003年4月からJPモルガン・チェース銀行。

日経プレミアシリーズ 893円 253ページ

  

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