イスラームから見た「世界史」 タミム・アンサーリー著/小沢千重子訳 ~人物描写、文化事象の記述で類書にない迫力

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イスラームから見た「世界史」 タミム・アンサーリー著/小沢千重子訳 ~人物描写、文化事象の記述で類書にない迫力

評者 山内昌之 東京大学大学院教授

アフガニスタンの歴史好きの少年は9歳から10歳の頃に優しい英国人からヴァン・ローンの『人間の歴史の物語』をプレゼントされた。この老紳士は『歴史の研究』の著者アーノルド・トインビーであり、少年は本書の著者のアンサーリーにほかならない。早熟の少年は成長してイスラームを軸にした世界史を書いた。「世界史」というよりも「イスラーム世界史」の感もあるが、とにかく人物描写の精妙さや文化事象の記述で類書にない迫力がある。

預言者ムハンマドや4人の正統カリフの事績は、欧米や日本の学者の著書と違って、すこぶる人間くさく正業でも成功した職業人として淡々と描かれるのは意外なほどだ。それでいて、11世紀から12世紀に活躍した「世界史に残る知の巨人」ガザーリーの業績を立体的に描く筆致は読者を一挙にイスラーム文化史に引き込むだろう。

ガザーリーの『哲学者の意図』は、ヨーロッパに伝わって西欧人にほぼ最初のアリストテレスとの出会いを可能にさせた。ガザーリーのあまりにすばらしい哲学解釈に、著者がアリストテレスその人だという誤解さえ与えたほどだ。数学や自然科学の結論が神の啓示と矛盾する場合にはどうなるのか。ガザーリーは結論のほうが間違っていると断定した。しかし著者も言うように、科学は啓示と同じ結論に達した場合にのみ正しいのなら、科学の必要性はどこにあるのか。実際に、イブン・ルシュド(アヴェロエス)は反駁を加えたが、論争に勝利を収めたのはガザーリーだった。

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