日本株は、やっぱり下落する懸念がある 米国株は崩れているのに「理由なき上昇」の謎

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これをどう見るか。失業率の上昇は、これまで職探しをあきらめていた人々(失業者として計上されない)が、景気改善で職が見つかりそうだと求職活動を始め、まだ採用されていない(失業者となる)という動きが大きいため、それほど悲観視するには当たらない。

また、消費支出減の背景には、6月の梅雨時に低温が続き、夏物消費が不振だった、という一時的な要因もある。ただ、表面的でも失業率上昇は悪材料だし、家計消費が、昨年同月に消費増税の影響で落ち込んでいた水準をさらに下回ったという点は、少なくとも内需株を買うような材料ではないことは明らかだ。

一方、内閣支持率の低下についても、外国人投資家のなかに不安を感じる向きが出始めている。さらに東芝の不正会計問題も、今のところ他社へ広がる展開とはなっていないが、警戒の声は聞こえる。TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉妥結の先送りも、株価の好材料ではない。とすれば、先週顕著だった、日本株の米国離れは、完全に裏付けを欠いている。

頭をよぎる「2007年の夏の思い出」

友人の市場関係者が、「夏が来ればパリバショック」を思い出す、と言っていた。これは、2007年8月9日に、仏金融大手BNPパリバ傘下のファンドが、解約に対応するための現金を用意することができなくなり、解約凍結を発表したことが、市場に波乱を引き起こした出来事だ。

もし今回、運用機関が揺らぐ事態が発生するのであれば、原油や金など国際商品で運用するファンドが、大規模な損失を抱えた場合だろう。商品に限定せず、株式も合わせて運用しているファンドもあり、株式市場への連鎖も懸念される。そんな夏の怪談を考えると、気が重い。

前回の当コラムで、輸出株より内需株が値持ちがよいだろう、とは書いたが、内需株もそろそろ疲れてもおかしくない。イオン、セブン&アイホールディングスなど大手小売株は、先週末にかけて崩れ始めている。

一方、7日(金)の米雇用統計発表後のように、米国株の調整が一段と進めば、米ドル安へとひきずりこまれてしまい、輸出株も買いづらくなろう。すると、日本の株式は買えるものがなくなり、全体として下落色が強まってしまう。

今週8月10日(月)~14日(金)の日経平均については、2万円~2万0700円と、先週の理由なき上昇の「ツケ」を、大きく支払う展開を予想する。

馬渕 治好 ブーケ・ド・フルーレット代表、米国CFA協会認定証券アナリスト

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まぶち はるよし / Haruyoshi Mabuchi

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米国マサチューセッツ工科大学経営科学大学院(MIT Sloan School of Management)修士課程修了。(旧)日興証券グループで、主に調査部門を歴任。2004年8月~2008年12月は、日興コーディアル証券国際市場分析部長を務めた。2009年1月に独立、現在ブーケ・ド・フルーレット代表。内外諸国の経済・政治・投資家動向を踏まえ、株式、債券、為替、主要な商品市場の分析を行う。データや裏付け取材に基づく分析内容を、投資初心者にもわかりやすく解説することで定評がある。各地での講演や、マスコミ出演、新聞・雑誌等への寄稿も多い。著作に『投資の鉄人』(共著、日本経済新聞出版社)や『株への投資力を鍛える』(東洋経済新報社)『ゼロからわかる 時事問題とマーケットの深い関係』(金融財政事情研究会)、『勝率9割の投資セオリーは存在するか』(東洋経済新報社)などがある。有料メールマガジン 馬渕治好の週刊「世界経済・市場花だより」なども刊行中。

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