堀内:オックスフォード大学への留学を経て、当時のチャールズ皇太子の下で補佐官を務められました。現在、展開されているフェニックスハウスやラグビーで英国を基盤とするカリキュラムを取り入れていることに強い影響があったのでしょうか。
英国で学んだ「紳士の教養」
フェイフェイ:英国王室でチャールズ国王(当時は皇太子殿下)のもとで8年間務めました。クラレンス(Clarence)宮殿(現在、私と妻とで共同経営するClarence Education Asiaの原点)には、ざまざまな領域と階層の人々が行き交っていました。
経済界や政治界のリーダーはもちろん、芸術界、宗教界の有名人や軍事、外交、科学のあらゆる分野の人々が出入りしていました。サッチャーさんやHSBC銀行会長、NATOの将軍、ハプスブルク家の王子様やペルシア皇帝の孫とランチや宮中晩餐会を共にしました。
その時、私は英国王室唯一の東アジア出身者だったので、いろいろなことを聞かれました。会食の間、2時間半誰とでも話せるのは紳士の基礎教養だとされていたので、最初は熱が出たほどです(笑)。
ただその時の彼らは、所属する組織の役職のお偉い帽子を被っていたわけではなく、周囲の人を自分に惹きつける魅力的な人間として僕の目に映りました。一言で言えば、"グラビティ(Gravity)"(注:人を惹きつけ魅了する力)がある、という点です。
最初から最後まで仕事の話をしない時がほとんどですし、時事問題やその時にロンドンのロイヤルオペラで演じられている歌劇について、また東洋思想や各大陸のマーケットについて話が飛び交います。これらの会話はどちらが正しいか競い合うためにするものではなく、純粋にこの世界に対する好奇心から生まれたものだと感じましたし、私の出会った多くの偉人たちはまるで少年少女のように目を輝かせながら互いの存在を楽しんでいました。
ですから、いま日本で起きている教養ブームは、出世するための戦う武器として、ビジネスの役に立つ幅広い知識を身につけようという切り口な気がしますが、それに対しては少し違和感があります。私にとっては、教養とはすぐに実用的な道具ではなく、自由のための土壌です。すなわち自由に発想し、自分のターム(条件)で生きるための土壌。地中の幅広く深い根と微生物と結びつき、私たちが豊かに生きるために滋養をくれるのです。