国枝慎吾「金メダル4回」叶えたメンタルの鍛え方 こうして車いすテニス界のレジェンドになった
直訳すると、「私は無敵だ」が思い浮かぶ。吉田がどの日本語の表現が一番しっくり来るか、いくつかワードを出していった。
「無敵」を挙げたとき、国枝の顔つきを見ると、どうもしっくり来ていない様子だった。
「最強」を出すと、国枝の反応に変化があった。「それだ。それですね」。
当の本人に、記憶をたどってもらった。
「なんか、無敵だとしっくり来ないと言った記憶はありますね。ちょっと子どもっぽい響きを感じたんですよね。仁子さんがいくつか日本語を挙げていき、最強だ、がピンと来たというか、これだ、と思いました」
恥を捨てた絶叫
キーワードは決まった。これで、一安心。セッション終了……、とはいかなかった。
アンはその場で叫べ、と指示した。戸惑いつつ、国枝が口を開く。
「オレは最強だ」
声が小さかった。やり直し。2度目も、アンからダメ出しをされた。
「もっと叫んで!」
国枝は追い込まれた。周りには、そのときの車いすテニス男子のトップ選手もいた。
恥ずかしさが先に立ったが、眼光鋭いアンの表情を読み取ると、妥協するムードは一切ない。「これは手ごわいぞ。やりきるまで終わらないな」。
半ばやけっぱちだった。恥を捨てねばという覚悟を決めた国枝は、大声で叫んだ。
「オレは最強だ!」
言霊の誕生だった。