中国株の大暴落は、これから本格的に始まる 今知っておくべき、中国経済の真相

拡大
縮小

2014年初夏からの世界的な原油価格の暴落は、同年年央には中国製造業の生産高成長率が8%を割りこむほど下がったために起きたのだと断定できる。米国のシェールオイル開発動向やOPEC諸国、ロシアなどの政治的な思惑による生産量の拡大や縮小とはまったく無縁で動いてきたのだ。

不自然な高止まり状態も

こうした基本的な事実関係を踏まえ、さらに公表数値は実態よりかなり上げ底されているということも頭の片隅に入れた上で、中国製造業の成長経路を振り返ってみよう。2005年から2008年半ばまではほぼ一貫して10%台後半の急成長が続いていた。2008年後半から2009年前半の1ケタ成長への低下は、明らかに国際金融危機に引きずられたための一過性の減速だった。

ところが、2009年末に始まった中国製造業生産高の低下はまったく違う。一過性の急落からV字型の回復へというパターンではなく、中国経済全体としての成長率が低下したために、2010年から2011年にかけて12~14%台に低下し、2012から2013年にかけては8~10%台へ、そして2015年にはついに6%を割りこむほど下がってきたのだ。

下段に掲載した国際市場での銅価格の動きを、同じく中国製造業の生産高成長率と比較したグラフに目を移すと、原油の値動きとは明らかに異質だということがわかる。2008年末に国際金融危機の余波でトン当たり3000ドル台を割りこむほど急落し、その後2009年を通じてトン当たり8000ドル目前まで急回復したあたりまでは、原油価格とほぼ同じパターンだった。

だが、2010年以降は原油価格の上昇率が1ケタからマイナスへと低下し続けたのに対して、銅価格は2011年年初にトン当たり1万ドル台という最高値を記録している。この時期にはもう中国製造業の成長率鈍化は明白になっていたので、この銅価格上昇は実需というより、投機的な買い占めや銅地金を担保にカネを借りる、いわゆる「銅ファイナンス」を反映した上昇だった可能性が高い。そして、直近の数値でも銅価格は5500ドル台を維持していて、2008年末に3000ドル割れした頃よりはるかに高い位置にある。

しかし、中国経済全体も、中国の製造業も、成長率は2008年以前より大幅に鈍化している。現在の銅価格はまだまだ割高であり、この先暴落する危険が大きい。鉄鉱石、粗鋼、鋼鉄を生産するためのコークスに使う原料炭といった商品も、銅と同じように不自然な高止まり状態にある。

中国のエネルギー資源や金属資源の爆買いに依存していた国際市況商品は、これから中国製造業の生産高が低成長からマイナス成長へと下落するにつれて、本格的な暴落過程に入る。そのとき、「世界の工場」であることによって高値で維持されてきた中国株は、さらに大きな下げを演ずるのは、間違いのないところだ。

諸国経済への打撃

また、オーストラリア、ブラジル、インドネシア、カナダといった資源国も、これまでは中国からの旺盛な需要が持続することを前提にして、資源採掘事業の規模拡大を進めてきた。だが、これら諸国の資源業界には、今や原価を下回る価格で自社の生産物を売ってでも、すでに投下してしまった設備投資額を少しでも早く回収しようと安売りせざるを得ない状態に追いこまれた企業が多い。

特に鉄鉱石や原料炭を産地から積出港までピストン輸送するだけの貨物列車の運転士の年収が、日本円で言えば1500~2000万円に達していたというような資源バブルを謳歌したオーストラリア経済は、眼も当てられない惨状を呈するだろう。

本来、世界中の先進国でもっともエネルギー資源、金属資源、食料の対外依存度が大きい日本にとっては、資源安は原材料コストを大幅に削減するチャンスだ。そして資源安のメリットを最大限に享受するためには、円高への転換を志向すべきだ。だが、現政権は相変わらず国民の生活水準を下げるだけの円安・インフレ路線に固執している。残念としか言いようがない。

増田 悦佐 ジパング・シニアアナリスト

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ますだ えつすけ

1949年東京都生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修了後、ジョンズ・ホプキンス大学大学院で歴史学・経済学の博士課程を修了。ニューヨーク州立大学助教授を経て、外資系証券会社で建設・住宅・不動産担当アナリストをつとめ、現在は株式会社ジパング経営戦略本部シニアアナリスト。

評論家としても知られ、証券アナリストの視点からの経済評論のほか、日本文明と欧米文明の比較を主題とした評論にも力を入れている。近著に『城壁なき都市文明 日本の世紀が始まる』(エヌティティ出版)、『3・11に勝つ日本経済』(PHP研究所)、『戦争とインフレが終わり激変する世界経済と日本』(徳間書店)、『危機と金(ゴールド)』などがある。
 

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