最近、多良さんの家計簿に「特別費」と「接待費」が新しく加わった。特別費は遊びにきてくれる孫たちへのお小遣いや息子に渡すガソリン代。接待費はたまに夕食を食べにやってくる次男親子にふるまう料理の食材費だ。
「ちょっといい食材を買うので、1カ月分の食費の予算をオーバーするんです。だから貯金から出す接待費にしました(笑)」
自分のために時間と交通費をかけて訪ねてきてくれる息子や孫たちへの感謝。これはちゃんと形に表さなければいけないと思っている。お金という形にするのは「今はモノがあふれているので、何が欲しいのかわからないから」だという。
距離を取りつつも、冷たくない。多良さん流のゆるく温かい家族との付き合い方だ。
この「古い団地」で一生を終えたい
一人暮らしの自宅も人間関係も風通しよく、多良さんは暮らしている。
独身時代も結婚後も、多良さんはいつの時代も「居心地のいい場所作り」を生活の軸足にしてきた。そして大切にしてきたのが「自分の家」だった。
どこにも出かけず誰とも話さず、録画しておいた古い映画を一日観ている日もある。夜寝る前に1時間や2時間の読書を楽しむのは至福のひととき。多彩な趣味も居心地のいい場所の大事なピースだ。古い団地のこの家が、多良さんにとっての居心地のいい場所の総決算なのである。
夫は寝たきりだった病院のベッドで「家に帰りたい」と多良さんに訴えた。そして住み慣れた自宅で、妻と子どもたちに見守られながら穏やかな最期を迎えた。
夫の介護という経験を通して、利用できるサービスや何を頼ればいいのかなどひと通り学んだので、一人でも何とかなるのではないかという思いを強くした。夫のように、居心地のいいこの場所で一生を終えたいという。
一人は孤独。年を取ったときに誰かがそばにいなければかわいそう――それは私たちがとらわれていた呪いだったのかもしれない。
「今はiPadだってスマートテレビだって、便利なモノがいっぱいあるでしょう。一人でできることはたくさんあります。趣味なんて大層なものではなくても、やりたいことを誰に気兼ねすることもなく自由にやったらいいと思うんです。“一人になってしまった”んじゃなくて、“一人がいい”んです」
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