89歳「築57年の団地で一人暮らし」続ける深い理由 子どもたちとの同居も断り、高齢独居を選択

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「Earthおばあちゃんみたいに年を取りたい」「自分もこういう老後を迎えたい」。YouTubeのコメント欄には多良さんの生き方に憧れる声が多く寄せられるが、

多良さん自身は「私は水の流れに沿って生きているだけなんです」と謙遜する。

生家は果物の卸と小売り業を営んでいたが、浮き沈みがあり、悪いときは日々の食事にも困るほどだったという。子ども心にも家の経済状況には敏感だった。人生には悪いときも良いときもある。少女時代に身を持って体験したことが、多良さんの生き方の根底にある。

Earthおばあちゃん
昔からおしゃれすることが大好きで、80歳ではじめてピアスを開けた(画像:書籍『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』〈撮影:林ひろし〉より)

何ごともくよくよ悩まない。物事は良いほうに考える。やりたいことはすぐにやる。ダメなときはすっぱり諦める。

「結局、水の流れに沿って生きるのが一番楽なんです。戦中戦後を経験しましたので、つらかったことも随分とありました。

長く生きていれば、生き別れも死に別れもあります。水の流れを素直に受けとめて抗わず、私は流れに沿って泳いでいるだけなんです」

飄々と生きているように見える多良さんだが、それでも子育ての最中は「母はこうあるべき」ということに縛られていた。いわゆるママ友とのつきあいも濃密にならざるをえない時期もあった。

「だから子どもたちが成人してから、すべての『こうあるべき』を払いのけたんです。そしたら気持ちが軽くなって、生きていくことがすごく楽になりました」

足し算引き算しながら、気分よく暮らす

80歳を過ぎてから、歳を重ねるたびに“できないこと”はどんどん増えていく。掃除機が重くなり、食べることが大好きなのに量が食べられなくなった。

ニットのベッドカバーは手作りで、壁に飾った絵も多良さんが描いたものだ(画像:書籍『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』〈撮影:林ひろし〉より)
「仕方ないです。どんどん死に向かっているんですから。できなくなったことや上手にできたことを足し算引き算しながら、その日一日を気分よく暮らしたいと思っています」。多良さんの眼は一点の曇りもなくどこまでも明るい。

いつ死んでもかまわないという多良さんだが、子どもたちは高齢一人暮らしの母を心配しているのではないだろうか。

「私が病気をすれば心配でしょうが、今、元気で楽しんでいるぶんにはこれでいいと思っているんじゃないでしょうか。子どもたちにも家庭がありますからね。自分たちの家庭を大事にしてくれたら、私はそれが一番です」

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