「蚊帳」で子供の命を救う!日本企業の執念 40万人の命を奪う「マラリア」と闘う住友化学
その中の有効な方策のひとつに、日本の化学メーカー・住友化学が開発した蚊帳「オリセット®ネット」(以下、オリセット)がある。1980年代後半に開発されたこの蚊帳は、紆余曲折を経て2001年、世界保健機関(WHO)から世界初の「蚊によって媒介されるマラリア対策の推奨品」(長期残効薬剤処理蚊帳)として認定された。
以来この蚊帳は、累計で2億張り以上がWHOや各国保健省の手によって、蚊が媒介する感染症のリスクのある地域の妊婦や幼い子供のいる家庭に配られ、使用され続けている。
このような製品は、日本発の製品としては極めて珍しいたぐいに属するといえるだろう。
世界で成功した製品の「産みの苦しみ」
オリセットには、ごく微量の薬剤を繊維の中に「練り込ん」で、必要な量のみ表面に浸み出させておくという、かなり凝った技術が採用されている。それにより、中にいる人をめがけて飛んでくる蚊が、蚊帳の表面に触れてノックダウンされるという、実に効率的な仕組みを実現している。おまけに表面に長く微量の薬剤がとどまるため、5年間以上使用できるのである。
しかしながらこの製品、住友化学の伊藤高明博士が当初のアイデアを考案してからというもの、必ずしも一筋縄で全世界での活躍へと進んでいったわけではない。浮いては沈み、沈んでは浮上することを十数年繰り返しながら、多くの人々の力が結集されることによって初めて、世界的な取り組みの牽引役のひとつとなる製品へと成長していった経緯があった。世界的な成功は、創案・研究者としての伊藤博士のみならず、モノ作りのエキスパート、販売や普及のエキスパートなど、さまざまな異質な力を持った複数の人々の思いと情熱が注がれることによって、初めて実現されたものだったのだ。
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