「NTDsの撲滅には、日本の力が必要です」 熱帯感染症の権威、ホッテズ教授に聞く
70年ぶりのデング熱の国内感染や、エボラ出血熱の出現で、2014年は熱帯感染症に対する関心が急速に高まった。デング熱は気温の低下とともに沈静化し、エボラ出血熱も主な流行地であるアフリカでの懸命な制圧努力によって徐々に終息に向かいつつある。
しかし、熱帯感染症のリスクそのものが低下したわけではない。ビジネスエリアの拡大によってボーダーレスに人が動く中で、かつては狭いエリアに限られていた感染症が全世界に広がってしまうリスクは、今後ますます高まっていくと懸念される。
それでも、エボラ出血熱のような致死性の高い病気に対しては、世界中の大手製薬会社や研究者が治療薬の開発に資金と時間を注ぎ込む。ビジネスとして十分に成り立つ可能性が高いからだ。ところが、同じように熱帯圏を起源とし、古くから存在を知られていたにもかかわらず、治療薬もワクチンも開発されてこなかった病気がある。
病と貧困の負のスパイラル
NTDs(Neglected Tropical Diseases)、「顧みられない熱帯病」と呼ばれる17種類の病気がそれだ。熱帯感染症のなかには世界100か国以上で流行し毎年2億人を超える感染者を出すマラリアも含まれるが、それを除いた比較的狭いエリアでの流行が中心の17種類だけでも、合計10億人を超える患者がいるという。
NTDsは、エボラのように短期間で爆発的に流行し、感染者の多くが死に至るような激甚なものではない。だが、感染から時間がたてばたつほど症状が重篤化し、容貌が変わって失明に至るものや、歩くことができなくなるものなどがある。体が動かせないだけでなく、差別を受けることも多く、働くことができない状態に長年置かれてしまう。
適切な時期に適切な治療を受ければそれほど難しくなく治癒できるのに、貧困のためにそれができず、その病気のためにますます貧困に陥ってしまう。単独の疾患ではなく、感染症であるため、地域全体がその状況から抜け出せない。
この負のスパイラルを断ち切るために、2012年1月、この17疾患のうち「10疾患を2020年までに制圧する」ことを謳った「ロンドン宣言」を、WHOなどが中心となって採択した。トラコーマ、アフリカ眠り病、ハンセン病などがその対象だ。特に住血吸虫症は、アフリカ、南米、アジアと広い地域に蔓延し、患者は2億人を超える。