キヤノン、一転減益予想で期待かかる新事業 「年内製品化に向けて開発は順調」

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田中稔三CFOは「ナノインプリントの開発は順調」と説明した

カメラとオフィスという2本柱が大きな成長を見込みづらい中、同社が急ピッチで進めているのが新規事業の育成だ。うち1つがアクシス買収に代表されるネットワークカメラ。そしてもう1つが半導体向けに使われるナノインプリントだ。「ナノインプリントの年内製品化に向けて開発は順調だ」と、田中CFOは手応えがあることを強調する。

ナノインプリントとは半導体の回路パターンを形成する技術の1つ。現在の主流は露光装置を使い、ウエハ基板に光を投影する方法である。が、ナノインプリントは、厚板をスタンプのように基板に押し当てて、回路パターンを形成する。

かつてキヤノンは半導体露光装置分野で、ニコンと市場を2分していた。それが、回路微細化競争の激化を受け、オランダのASML社がシェア8割を握るまでに成長。キヤノンは最先端分野から手を引き、自動車のパワー半導体など微細化の必要がない分野の需要を、確実に獲得する方針に転換している。

つまり、キヤノンが再び最先端向けに打って出るための武器が、ナノインプリントなのだ。2014年4月、ナノインプリントでトップの技術を持つ米モレキュラーインプリント社を買収し、今年中の製品化に向けて開発を進めている最中である。

今のところ先行投資期だが…

今回の決算にもその本気度が見て取れる。研究開発費の内訳を見ると、ナノインプリントが含まれる産業機器その他事業には、前年同期と比べて倍以上となる、300億円超の研究開発費が投入されている。

ただし、ナノインプリントは、微細化や生産性などの詳しいスペックはまだ開示されていない。どこまで普及するかは未知数だ。特に、基板に直接触れるスタンプ方式であるゆえ、不良品比率の高さがどの程度改善されるかが今後の焦点となるだろう。

安定的に年間3000億円以上の営業利益を叩き出すキヤノンにとって、新規事業の成否が直ちに会社の行く末を左右するわけではない。しかし、主力事業が成熟化を迎え、次の成長源となり得る事業を作り出すことは、簡単ではない。腰を据えて先行投資を行い、ネットワークカメラやナノインプリントを新しい柱へと育てていく覚悟が必要だ。

渡辺 拓未 東洋経済 記者

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わたなべ たくみ / Takumi Watanabe

1991年生まれ、2010年京都大学経済学部入学。2014年に東洋経済新報社へ入社。2016年4月から証券部で投資雑誌『四季報プロ500』の編集に。精密機械・電子部品担当を経て、現在はゲーム業界を担当。

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