避難所から仮設住宅に移り、少しづつ日常を取り戻そうとしている被災地で、次にできることは心のケアだと確信し、以来南さんは、東北や熊本、そして能登、13年以上にわたって、被災地を訪れ、読み聞かせ活動を続けている。
「読み聞かせ」が持つ力を信じて
困難なときにこそ、人は物語を求めている。東北の人たちからそう教わった南さんは、読み聞かせが持つ力についてこう語る。
「人間は日々物語を求めています。小説を読んだり、映画を観たり、舞台を観たり、ドラマを観たり、音楽を聴いたり。物語に触れることによって、想像力をふくらませるわけです。
今回能登で被災された方々は、いつになったら元の生活に戻れるのか、この状態がいつまで続くのか、毎日出口が見えない不安の中で生きられていると思います。
そんなつらさや行き場のない怒り、怒りを通り越した悲しみと向き合わなければならない状況にあって、物語は一瞬でも日常から離れ、想像の世界に身を置く時間をくれるものだと思っています」
さらに、人々に物語を届けるうえでも、読み聞かせだからこそできることについて、南さんはこう続ける。
「もちろん、黙読もすばらしいのですが、文字を目で追わずに耳だけで取り込めるのは、すごく贅沢なことです。それを肉声で聴くのは、人の心に直接訴えかけるものがあると感じています」
被災地で読み聞かせを行うと、子どもたちはキャッキャとはしゃいでいるが、大人の方々は涙ぐんで聞いているという。復興が思うようにいかず、ストレスを抱えている人たちにとって、たとえ一瞬でも癒やしにつながればと南さんは願う。
読み聞かせが大人の心にも響くものだと実感する一方、一度に大人数に向けて届けられないもどかしさもある。しかし、たとえ直接出会える人数が限られていても、現地に赴き、読み聞かせを続ける理由について南さんはこう語る。
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