妹は「いつかはこういう日が来るんじゃないかと思っていた」と話した。しかし、距離的にも年齢的にも自分たちだけで片付けるには大きな労力と時間がかかってしまう。すぐにイーブイへ依頼することを決めた。
いつまでも鼻の粘膜に残る孤独死の臭い
イーブイにとって孤独死の現場は珍しいものではない。代表の二見氏に片付ける手順を聞いた。
「この現場にはウジ虫が湧いていたので、作業の前の見積もりの時点でドアの隙間を養生テープで埋めました。そうしないとウジ虫が外に出てきちゃうんです。大阪に多い文化住宅(2階建ての木造アパート)なんかだと、わずかな間をすり抜けてウジ虫が隣の部屋にも出てくるんですよ。それが通報のきっかけにもなったりするんです」(二見氏、以下同)
ハエの幼虫であるウジ虫は白色の体をしている。しかし、イーブイが見るウジ虫のほとんどは茶色だ。孵化直後のウジ虫は白色だが、成長とともに色が濃くなっていくのだ。
「マンションの管理人が『子どもらがベビースターラーメン散らかしたんだ』と思って掃き掃除をしようとしたら、ウジ虫だったということがありました。『部屋で人が死んでいるかもしれない』と連絡があったので行ってみると、やはり中で住人の方が孤独死されていました」
二見氏がはじめて孤独死の現場に立ち会ったのは約10年前。身寄りのない老人が一人で住んでいた部屋だった。怖さや悲しさよりも臭いに対する抵抗が圧倒的に強く、ほかに何も考えられなくなったという。
「あの臭いだけはほかに例えようがないんですが、とにかく脂っこくて粘っこくて、粘膜にまとわりついてくるんです。初めて孤独死の現場に入ったスタッフは、家に帰って夜ご飯を食べているときもずっとその臭いがしたって言いますね。酸っぱさや甘ったるさはないんですが、ツンと辛いときはあります。ご遺体によって臭いも変わるんです」
人が亡くなっているとはいえ、悲しんでいる余裕はない。依頼主の目的はあくまで部屋をきれいな状態に戻すことである。現場では片付けを始める前に、まずは遺体があった場所を確認しなければならない。
「絨毯の上で亡くなられていた場合などはまるでそこに人の影があるように、人の形に体液が染みています。そして、どこまで体液が染み込んでいるかをチェックします」
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