自衛隊は、やはり「隊員の命」を軽視している

戦闘を想定した準備はできていない<上>

陸自と米軍の衛生能力の差はファースト・エイド・キットの違いに留まらない。分隊単位で整備されている衛生品のキットや携行用の担架などを含むTFAK(Team First Aid KitやVFAK(Vehicle First Aid Kit)、一般兵士であるが脱気針による胸腔減圧ができるCLS(Combat Life Saver)の存在など、予防の徹底、治療・後送システムと総合的に比較したならば陸自と米軍の衛生能力の差は「雲泥の差」となることだろう。

有事用の国内キットを補完するための備蓄について尋ねたところ、有事用の備蓄はあまりなく、有事には流通在庫に頼るという。

だが実際問題として銃器による犯罪の少ない日本国内では戦闘外傷用の医療用品は特殊であり、そのほとんどが輸入品である。またこれらは使用期限があり、自衛隊以外の大口需要は期待できない。しかも調達は競争入札であり、必ず勝てるとは限らない。通常は応札が決まってから海外メーカーにオーダーをかける。このため普段から大量の在庫を抱えることはない。止血帯は陸自専用仕様だから、そもそも流通在庫は存在しないはずだ。

有事になった際に、仮に在庫があっても右から左に納品できない。業者は自衛隊の補給処ではない。調達するためにはまず入札の告知を出してから応札者を募って競争入札をする必要がある。実際問題、流通在庫で有事に対処は机上の空論でしない。

調達数があまりにも少ない

以前の記事にも書いたが「個人携行救急品」の初年度(平成24年度)の調達は国内用のみが約5万セットであり、PKO用の調達はゼロだった。これでは海外活動や国内有事での使用はもちろん、平時の教育もできなかったはずだ。これも先述の大臣や陸幕長の見解と矛盾する。この件についても尋ねたが、明確な回答は得られなかった。

教育用機材としては、エマージェンシー・バンテージや包帯は各約3万個(10回ぐらい使い回しが可能なので、合計30万人ほどに教育が可能)、止血帯は数千個、チェストシールも訓練用も数は少ないが、調達しているとのことだった。

だがこれらを見れば、各アイテムのバランスが悪すぎる。本来なら一定数を満たした訓練用キットを用意する必要があるはずだ。これではチェストシールなど一番数が少ないアイテムに合わせた人数しか訓練ができないだろう。ボディアーマーの防護力の過信から、胸やお腹は損傷しないと思い込んでいるからこそ、陸自のチェストシールの装備化が進んでいないのではないか。物がなければ教育も普及していないであろうから、胸部外傷や腹部の外傷に対する教育も不充分であろうと推察される。

包帯と止血帯は実際に使用しなければ身につかない。止血帯は相当な訓練をしなければ正しい使用法ができないという研究結果もある。教育所要ということであれば、一番、数を揃えなければならないのは止血帯であり、少なくとも4インチ・エマージェンシー・バンテージと同じ数の止血帯がなければ、防ぎえた戦傷死の60%を占める四肢外傷の救急処置訓練を行えない。

4インチ・エマージェンシー・バンテージは止血帯が使用できない場所に止血剤との組み合わせにより止血を行えるよう、巻き方に改良がなされ、10種類を超える使用法が教育されるようになった。10回の使い回しかできないのであれば、教育できるのは実際のところは1万人に満たないだろう。

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