自衛隊は、やはり「隊員の命」を軽視している 戦闘を想定した準備はできていない<上>

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諸外国では訓練用に各自に支給されるものとは全く別のキットが販売されており、これを採用している軍隊も多い。例えば米国のノース・アメリカン・レスキュー社はスーツケース型のドライケースに20個の訓練用IFAKのシステムを収納したセットを販売している。これに装備されている止血帯などは色がブルーに変えられている訓練専用である。このようなシステマティックな訓練用キットを陸自では採用していないようだ。

先に述べたように防衛省、陸幕は「個人の救急処置に関する訓練は、陸上自衛官全隊員に対し、年間30時間から50時間程度の教育訓練を実施しており、この中で、有事の際に追加される5品目を含めた『個人携行救急品』の概要教育、実技訓練等を行っている」としているが、数から見てそれが本当に可能であるのか疑問が残る。

またこの訓練は筆者が取材した限り、戦場を想定した訓練ではなく、包帯の訓練も行われているというが、通り一辺倒であり、例えば止血帯が使用できない大腿部の付け根に止血を行う方法などは教えられていないという。

現場での救急処置が生存率に直結する

これらのことから、有事に際しては全隊員にPKO用キットと同じ内容に揃え、そのための教育を行っているというのは率直に申し上げて疑わしい。仮にそのような計画があっても実行は不可能だろう。

戦争となれば国内の戦場においても後送する病院や医療レベルは不十分なのではないだろうか。第2次世界大戦以降の戦傷死に関する研究では、戦死者の約90%以上が負傷後2時間未満で死亡しており、戦死者の約90%以上が最前線の治療施設に収容される前に死亡しているのであるから、後送する病院や医療レベルの違いよりも、受傷した現場でいかに早期に救急処置を行い、応急処置、応急治療へと命を繋いでいくかを目的にファースト・エイド・キットやMEDICの装備品を選定することが常識である。

その証拠にファースト・エイド・キットを国内外用と分けている軍隊は存在しない。国内でも有事には国外用と同じものを使用し、そのための訓練を行っているのであれば、貧弱な国内用セットではなく、普段からPKO用と同じものをすべての隊員に支給すべきだし、国内外とも同じものを支給すべきだ。現状では、単に全部隊に「国外用」を支給する費用が惜しいから、といわれても仕方ないだろう。

清谷 信一 軍事ジャーナリスト

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きよたに しんいち / Shinichi Kiyotani

1962年生まれ、東海大学工学部卒。ジャーナリスト、作家。2003年から2008年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関Kanwa Information Center上級アドバイザー、日本ペンクラブ会員。東京防衛航空宇宙時評(Tokyo Defence & Aerospace Review)発行人。『防衛破綻ー「ガラパゴス化」する自衛隊装備』『専守防衛-日本を支配する幻想』(以上、単著)、『軍事を知らずして平和を語るな』(石破茂氏との共著)など、著書多数。

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