「乳がんサバイバー」の"輪"は企業に広がるか いま求められる、乳がん患者との付き合い方

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このような集まりが重要なのは、乳がんは早期発見がしやすく、10年生存率も約90%と良好で、がんとともにどう生きるかということが重要になるためだ。乳がんは女性のかかるがんで最も多い。日本では30~50代の働き盛りの世代を中心に、年間約8万人が乳がんと診断され、女性の12人に1人が生涯のうちに罹患する。実は女性にとって、乳がんはとても身近な病気であるといえる。

乳がんサバイバーのサポートに熱心な山内さんは、「乳がん患者は増え続けており、これから社会的なムーブメントになってくる。企業によるピンクリボン活動は、従来は検診におカネを出すことが中心だった。しかし、今後は乳がんサバイバーの声を商品開発などに取り入れ、サバイバーが暮らしやすい社会をつくってほしい」と訴える。

動き始めた"乳がんサバイバー"

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乳がんサバイバーの池田さんが開発した「エンジェルパッド」

実際に乳がん患者のアイデアが企業に届いて実現した商品がある。乳がんで乳房を全摘し、胸が平らになった人向けの、洗える胸パッド「エンジェルパッド」はその一つ。

外側が綿、中身が低反発ウレタンチップで肌になじみやすく、家庭での洗濯が可能。1500~2200円という手頃な価格と、胸の形に合わせて9つのサイズが用意されているのも特徴だ。

エンジェルパッドを考案したのは、八王子市の主婦の池田安江さん。4人の子どもを母乳で育てたベテランママだが、2009年に乳がんが見つかり、右乳房を全摘した。当時販売されていたのはシリコン製の胸パッド。ただ、1個数万円と高価で手が出ず、通気性も悪いため、肌が弱い池田さんには合わないと思われた。周囲の患者仲間でも、ブラジャーの中にハンカチを丸めて入れている人が多かった。

「だったら、洗えて、安く、肌が弱い人でも使える胸パッドを自分で作ろう」。カントリードールを100体以上作るほどの手芸好きだった池田さんにとって、それはごく自然な発想だった。水玉や花柄などかわいらしい布を裁断してせっせと縫っては、静岡県浜松市のソフトプレン工業に特注で作ってもらった低反発ウレタンチップを詰め、自分で立ち上げたネットショップで1200個以上を販売してきた。

だが、さすがに1人で作って販売し続けるのは大変。昨年の夏、肌着メーカーなど11社に胸パッドの企画書を送った。8社から回答が来た中で、アトピー・敏感肌の人向けの肌着を作っている、埼玉県秩父市の島崎が商品化してくれることになった。

今年3月の発売から2カ月半で約400個が売れ、販売は好調だ。池田さんは「感触と形にこだわったエンジェルパッドを、ぜひ多くの乳がん患者に届けたい」と話す。

社会のがん患者に対する理解はいまだ十分とはいえず、がん患者が持つ潜在能力は「もう働けないんでしょう?」という誤解に埋もれてしまっている。池田さんのような活動的ながんサバイバーが増えてきた昨今、彼女たちの想いをいかに経済活動の輪(Ring)の中に取り入れていけるか。企業側の姿勢にも変化が求められている。

長谷川 愛 東洋経済 記者
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