「原爆のキノコ雲が高校の校章」町の住民が許す訳 映画「RICHLAND」で描かれる米国の町の光景

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――映画には原爆の被害の映像が使われていません。入れる選択肢もあったのですか?

入れようか、入れまいか、ずいぶん悩みました。原子炉国定歴史建造物のツアーで原爆の被害の映像がまったく示されていないことが気になっていましたし、アメリカの観客は見るべきだという強い思いもありました。

ただ、日本の観客にとって、アメリカ軍のカメラで撮影された被害の状況を見ることはトラウマを重ねることになるのではないかと思ったのです。

また、この映画は場所を大事にしています。ハンフォードとリッチランドのみで撮影したので、それ以外の場所の映像を入れることには違和感がありました。

――詩や音楽が織り込まれ、放射能に汚染された大地が詩的に描かれているのも印象的です。

ランドスケープはこの映画の中心的な登場人物の1人だととらえています。というのは、その土地にいるように感じて、体験してもらうことが大事だからです。

大地は現代までの歴史をすべて見つめてきました。何を見てきたのかを想像しながら観て、土地とそこに根付いているものについて考えてほしいと思いました。

リッチランド 原爆 アメリカ
高校生には親世代とは違う考えを持つ人たちもいる© 2023 KOMSOMOL FILMS LLC
後半には広島出身のアーティスト、川野ゆきよさんが登場し、果敢にも町の人との対話を試みる。そして原爆を表した作品の強烈なイメージで映画は幕を閉じる。

矛盾を抱えて生きる人への理解が深まる

――映画を完成させて何かわかったことがあれば教えてください。

1つは、アメリカの保守的な考えを持つ労働者階級の人々に対して、最初より複雑な気持ちを持って共感できるようになりました。

危険とわかっていながら働くこと、仕事への誇り、故郷への愛着、そういう矛盾を抱えながら生きている人たちに対する理解が深まったと思います。

リッチランド 原爆 アメリカ
アイリーン・ルスティック監督/ イギリス生まれ、アメリカ・ボストン育ち。両親はチャウシェスク政権下のルーマニアから政治亡命した。フェミニスト映画作家、アーカイブ研究者。「リッチランド」は4作目の長編映画。カリフォルニア大学サンタクルーズ校で、映画およびデジタルメディア学教授として映画制作を教えている。裁縫が好きで写真の服は上下とも自分で縫った(写真:筆者撮影)。

――この映画が日本で上映されることについてはどう思いますか?

リッチランドと日本の人には絶対に観てほしいと思っていました。日本で上映できて幸せですし、どんな反応をしてくれるのか、話を聞きたい思いでいっぱいです。これから広島の原爆ドームなどに行く予定です。重要な旅になると思っています。

仲宇佐 ゆり フリーライター

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なかうさ ゆり / Yuri Nakausa

電機メーカー勤務、秘書などを経てライターに。ラジオ、アート、本などの記事や人物ルポを執筆

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