「原爆のキノコ雲が高校の校章」町の住民が許す訳 映画「RICHLAND」で描かれる米国の町の光景

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私は歴史の中で解決できていないものと格闘している人々や場所に興味を持って映画をつくることが多いんです。表面的にはきれいでも、まだ深く掘り下げられていない過去がトラウマとしてよどんでいるような場所。リッチランドもそういう場所だったのだと思います。

リッチランド アメリカ 原爆
核関連施設で働くために各地から人が集まった。給料は高く、アメリカンドリームを実現させた人も多かった© 2023 KOMSOMOL FILMS LLC
映画には町の人が次々に登場する。核関連施設で働いていた人は「キノコ雲は殺しのシンボルじゃない。この町の業績だ」と語る。ここで働き子供を育てた人、幸せな子供時代を過ごした人、父親を放射線関連の病気で亡くした人、太平洋戦争に従軍した退役軍人、キノコ雲の校章に反対する元教員、生産拠点の建設で土地を追われたネイティブ・アメリカンもいる。

愛する場所が日本やアメリカ先住民に被害及ぼす

――さまざまな立場の人が語っています。原爆を否定しない人も多いですね?

映画の中心的なテーマは、人々が暴力的な歴史にどう折り合いをつけていくか、ということです。自分の愛している場所が、日本のみならずアメリカの先住民にも被害を及ぼしていた。

郷土愛、誇り、被害という矛盾の中に身を置くのはどういうことなのかを考えるために、町の保守派の人たちの声を聞きました。最初から原爆に反対する映画をつくろうと思っていたら、全然違うアプローチになったと思います。

核推進派と反対派というスッキリとわかりやすい二項対立を描くのではなく、単純に原子力産業を批判する映画をつくろうとしたわけでもない。「より居心地悪く、人との距離が近く、アンビバレントな空間」を目指した。立場や背景の異なる人が安心して話せて、観客がその声を聞ける「場所」が映画の中につくられている。

 

――どの人もリラックスして話しているように見えますが、他所から映画の撮影に来て、警戒されませんでしたか?

確かにこの町はネガティブなイメージで見られることが多く、批判的に取り上げるジャーナリストや反核活動家が数多くいます。

私は町を批判しに来たのでも、反核映画をつくりに来たのでもなかったので、そのことを相手にしっかり伝えました。それに私は4年半の間、町に何度も通っていたので、「あの人、また来てるわ」「あの人は大丈夫」と信頼してくれたのかもしれません。

リッチランド アメリカ 原爆
ハンフォードのB原子炉国定歴史建造物で記念撮影する観光客© 2023 KOMSOMOL FILMS LLC
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