日本国内で最も懸念されているのは、安倍首相がとっている憲法改正を回避した立法戦術が、自衛隊の武力行使についての個別的な議論の障壁となるのではないかということだ。
たとえば、日本が第二次世界大戦後唯一軍隊を海外へ派遣したのは、2004年のイラク派遣であり、その目的は米国の再建努力を支援するためだった。その際、自己防衛のためだけに自衛隊員が使用できる銃器の映像を政府が公開するなど、軍事目的ではないと民衆を納得させるために周到な準備が行われた。また、9.11の米同時多発テロ後の時限立法で、日本は「非戦闘区域」のみに限り、インド洋にて米艦船へ給油活動を行うことが許可された。
今回の新法案が、ただちに法律になるわけではない。審議は参院に移行するが、採決が行われない可能性がある。しかし、60日間が経過すると、審議は自動的に与党が安定多数を擁する衆院に戻されるため、ここで法案は成立する。原則として、憲法第9条に反するかどうか最高裁で判断する可能性もあるが、歴史的に最高裁は政府に有利な判決を下してきた。
なぜ、新法案が必要なのか
新法案は「何」については言及しているが、「なぜ」は未だに理解しがたいものだ。
安倍首相は、この法案は、日本が中国からのものを含めて直面している脅威に対応するものだと述べている。また、イスラム国による日本人の人質2人の殺害にも言及し、自衛隊が救出できた可能性を示唆している。このような見方は自民党に資金援助する超国家主義者には非常に受けが良い一方、反安倍派にとってはたわごととみなされている。米国安全保障は、隣国 (少なくとも日本) の悩みの種となることなしに、日本を保護するものだ。そして、仮に日本が人質救出のための特殊部隊をもっていても、そのような行動は十分に憲法第9条の趣旨の範囲内と考えられている。
また安倍首相は、新法案によって日本が米国の防衛に貢献することもできると述べているが、反対派は、米国による中国や中東への攻撃に巻き込まれかねないと感じている。安倍氏自身の日本防衛論はさておき、現実的な要因の1つとして、米国が「集団的自衛」という旗印の下で首相をより攻撃的な立場に駆り立てているということが挙げられる。
しかし、真の「なぜ」は安倍首相の心中におさめられているようだ。安倍首相は、たとえば戦犯に問われた日本の指導者たちは「日本の法律の下では犯罪者ではない」とするなど、これまで長い間、第二次世界大戦について過度に保守的な見解をもってきた。安倍氏の祖父である岸氏は、戦時中の任務が戦犯にあたるとして米国占領軍に逮捕された。岸氏が、日本を軍事大国として再建し、戦後憲法を破棄するという自身の夢を、孫である安倍氏に託したとの見方もある。
安倍氏は、自分自身の考えで行動するのに十分な能力をもっていると自負している政治家だが、国民の多くが必要と感じている国家の安全保障とはかけ離れている。安倍氏は、自身のイデオロギーのためならば、ケンカを売り、政権を危機にさらし、国民を怒らせてもよいと思っているようだ。
※著者のPeter Van Buren氏は24年間アメリカ国務省に在籍。主に日本で勤務した。彼はイラクにおける国務省の再建策の問題点を告発する書籍を出版したことが原因で国務省を退職している。ここに記述した意見は著者によるものである。
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