対話の技法/対話の苦しみ 善意が無に帰するとき

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だが、そういった中に一人、「すごかった。ひどかった」としか言わない若者がいた。「だから、また行く」のだという。その訥々(とつとつ)とした言葉に「共苦」を感じた。この若者であれば、苦悩する人々に拒絶されても、対話的に消化していくことができるだろうと思ったものである。

もちろん、これほど極限まで突き詰める必要はない。自分なりの善意や正義感で、それが相手に迷惑と受け止められようとも、行動することが必要だということである。当然、行動すれば衝突する可能性もある。だが、衝突するからこそ、対話の必要性も生じるのだ。

対話とは、個々の「違い」を隔離して、平穏無事に共存する方法ではない。「違い」を衝突させ、混沌とした状況に苦しみながら、共存の道を模索する方法なのである。


北川達夫(きたがわ・たつお) 
日本教育大学院大学客員教授■1966年生まれ。早大法学部卒、外務省入省。在フィンランド大使館に8年間勤務し退官。英、仏、中国、フィンランド、スウェーデン、エストニア語に堪能。日本やフィンランドなど各国の教科書制作に携わる。近著は『不都合な相手と話す技術』(小社刊)。(写真:吉野純治)


(週刊東洋経済2011年10月1日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
北川 達夫 星槎大学客員教授

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きたがわ たつお / Tatsuo Kitagawa

1966年東京都生まれ。外務省経済局、欧亜局、在フィンランド日本国大使館在勤、在エストニア日本国大使館勤務ののち退官。OECD・PISA読解力調査専門委員、東京芸術文化評議会専門委員、横浜国立大学大学院工学府非常勤講師、日本教育大学院大学学校教育研究科客員教授などを経て、2017年より現職。

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