それを言っちゃあ、おしまいよ──映画『男はつらいよ』シリーズの主人公・車寅次郎(寅さん)の定番のせりふである。時代劇でも、よく出てくるせりふだ。
親兄弟間のけんかが高じて、つい「出ていけ」と怒鳴ったとき。仕事もせず、ばくちばかりしている夫に対して、妻が「ごくつぶし」とののしったとき。要するに、それなりの理はあるものの言いすぎたとき、言葉が過ぎたとき、それをたしなめる役割のせりふである。
私は若い頃、この種のせりふが大嫌いだった。本当のことを言って何が悪い。「言いすぎ」とか「言葉が過ぎる」というが、その規準はどこにあるのか。あいまいな規準で発言を抑圧されてはかなわない、などと尊大に考えていたのだ。
だが、人間関係において、「それを言っちゃあ、おしまいよ」という発想は重要である。
売り言葉に買い言葉で、お互いに引っ込みがつかなくなると、解決するものもしなくなる。無用に感情的対立をあおったり、相手を傷つけたりしていては、まともなコミュニケーションは成り立たない。
とはいえ、規準があいまいなこともまた事実である。「わかりあえない」ことを前提とする対話において、「言いすぎ」の規準はどこにあるのか。何を言ったら「おしまい」なのか。これが今回のテーマである。
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