この内容について、次のような対話課題が設定された。
「先住民族から『サンポ』を奪い取ったことは犯罪であるか、それとも犯罪ではないか。対話せよ」
これが小学校5年生向けの課題である。実に面白い。もちろん、この課題に既定の正答はない。「犯罪とする立場」と「犯罪とはしない立場」の正統性について、徹底的に対話させることが目的なのだ。
ただ、この課題はフィンランド国内で物議を醸した。世間の論調は「大昔のことを『犯罪』と言っちゃあ、おしまいよ」というもの。確かに、そのとおりではある。
識者の意見はさまざまだった。自民族の尊厳を揺るがすようなことを、子どもに考えさせてはならない。いや、先住民族の尊厳を考えれば、こういったことこそ考えさせるべきだ。いやいや、確かにこういったことを考えさせるのは重要だが、小学校5年生には早すぎる──。
自由な発言の確保を重視する教育においても、個人や民族の尊厳にかかわる部分については慎重に慎重を重ねる。ここに対話の基本を見て取ることができる。つまり、個人の尊厳や特定の社会集団の尊厳にかかわる表現には、慎重を期したほうがよいということだ。
もちろん表現は自由である。だが、「身の安全を図る」という対話の原則からすると、慎重になったほうがよい、ということだ。
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