対話の技法/対話の苦しみ 善意が無に帰するとき

✎ 1〜 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 最新
拡大
縮小

苦悩する人に、救いの手を差し伸べるのも、けっこう難しいものである。自分なりに相手の苦しみを理解して、精いっぱい支援しているつもりなのに、手ひどい拒絶の言葉に遭うことがある。

「私の本当の苦しみなんて、あなたにはわからない」

人間とは面白いもので、相手には自分のことが理解できないと考える一方で、自分には相手のことが理解できると考えがちである。ただ、そう考えていると、拒絶の言葉に深く傷つくことだろう。あるいは、強い憤りを感じることだろう。

「同じ経験をした者にしか、この苦しみはわからない」

これに対して「私にも同じような経験があるから、あなたの苦しみはわかる」と答えたらどうか?

それで同病相哀れむことは可能かもしれないが、必ずしもうまくはいかない。人間とは面白いもので、「同じ経験」を共有しているといっても、自分の経験は重く、相手の経験は軽く評価しがちなのである。

古典的な対話論では、困っている人、苦しんでいる人、悩んでいる人を目にしたときこそ、対話的に考えて行動すべきだと教えている。

他者の苦しみを見たことに苦しめ。それがたまたま他者の苦しみであり、自分の苦しみではないことに苦しめ。あるいは、他者の苦しみを見ても、自分が苦しまないことを恥じて、その恥のために苦しめ。

関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT