日経会長が惚れ込んだ「FTのCEO」とは何者か ジャーナリスト集団を率いるリーダーの素顔
――グローバル戦略展開の中でも、中国語版のオンラインニュースに力を入れるなど、アジア強化を進めています。
以前、韓国と香港の特派員をやっていたこともあって、アジアに対しては個人的に非常に親密な思いを持っています。特派員時代、次々に新しい企業が立ち上がり、短期間のうちにグローバル企業として成長していく姿を目の当たりにしてきました。FTはそうした企業の上級幹部に対し、技術やビジネスの新しいトレンドなど、さまざまなニュース分析を提供してきました。グローバル化の進展が、FTの読者を増やしているとも言えるでしょう。
FTは、アジアであってもローカルなニュースに偏らず、グローバルなビジネストレンドについての情報をつねに提供しています。中でもここ数年、力を入れているのが中国です。とはいえ、中国には外国のメディアに対して政府規制があるため、われわれは中国語によるオンライン配信を中心に展開しています。現在、登録会員数は120万人おり、これは大成功と言えるでしょう。
FTアジア版(ペーパー)の状況は、03年からの比較で広告収入が2倍になっていますし、同じ期間で購読者数も40%増えて、現在の発行部数は4万部になりました。こうした成長に私は大変満足しています。
――FTはイギリス、米国でそれぞれ10万部を超える部数を発行しています。アジアでも同じくらい、つまり10万部超を狙えると見ていますか。それとも、アジアではオンラインが中心でしょうか。
FTの戦略は、チャネルニュートラルです。われわれの発信情報は印刷物でも読めるし、ブラックベリー端末でも読めるし、インターネットでも読める。特定のチャネルに偏るような戦略を採っていません。
印刷物のFTアジア版は、今よりもちろん増えると考えています。しかし、技術変化が速いので、3年先であっても、オンラインがどれぐらい伸び、印刷物がどれぐらい伸びるか、と予測するのは難しい。ですから、どちらからもフォーカスを外さないようにしています。
ただ印刷物とオンラインとの間にはすみ分けがあります。印刷物に求められているのはボリュームよりもクオリティです。ですから印刷物は、最も上層部の、リーダー中のリーダーを対象にしている。これは米国市場で採った戦略と似ています。
――昨年、グループ会社だったFTドイチェランド(ドイツ語版のFTを発行)とフランスのレゼコー(フランスの高級経済紙)を売却しました。これにより、印刷媒体は英語に絞った格好です。今後さらに英語に集中する戦略ですか。
市場のダイナミックな動きに合わせ、柔軟に展開していくつもりです。決して英語だけに絞っているわけではなく、たとえば中国では、北京五輪を前に高級ブランドなどの情報を取り扱う中国語の月刊誌を出す計画です。また、過去にはFTのブランドで上海において、中国語の印刷物を出したことがあります。
中国以外の他の国ではオンラインからではなく印刷物から情報提供を始めています。中国では、政府の規制の関係からやむをえずオンラインから始めた、というのが実態です。
――つまり中国でも新聞としてのFTを発売したい、と?
中国で発刊できれば、間違いなく大きな成功を収めるでしょう。すでにオンラインではわれわれ独自のニュース分析、特にグローバルなビジネス分析に対して、中国の読者は、非常に興味を示してくれています。
なぜそう断言できるかというと、中国の読者からの手紙が非常に多いのです。一つの記事に対し、何万ものメールが来ることがある。私がFTの副編集長をやっていたときには、中国の読者からのメールをいくつか読んでいましたが、そこから中国には熱心な読者が多くいることがわかったのです。