日経会長が惚れ込んだ「FTのCEO」とは何者か ジャーナリスト集団を率いるリーダーの素顔
無料紙やインターネットの普及によって、情報をタダで読むことが当たり前の時代になった。それが世界中の新聞の凋落を引き起こしている。だが、その流れに反するように業績を伸ばしているのがフィナンシャル・タイムス(FT)だ。「世界のFT」を標榜してグローバル発行体制を推し進め、ネット展開にも成功している。その戦略の指揮を執るのが43歳(2008年当時)の若き最高経営責任者、ジョン・リディング。韓国や香港などアジア特派員の経歴を持ち、中国市場での事業化で大成功を収めて、親会社のピアソンから認められた人物だ。彼が思い描くFTの未来像とはどのようなものなのだろうか。
――新聞はインターネットの影響を受け、軒並み部数減少、広告減少に苦しんでいますが、FTは比較的順調に業績を伸ばしている。現在の環境は逆風ではないのですか。
確かにメディア業界が今ほど多くの課題に直面したことは、過去にないと思います。私自身、20年にわたりこの会社で記者として造船、通信業界などを担当し、業界の変動についてずいぶんと書いてきました。しかし、今は自分自身がいるメディア業界で、そういった大きな変化が起こっている。
メディア業界の多くの人たちは今の状況を悲観的に見ていますね。しかし私は楽観的です。インターネットをはじめ、新しい技術の登場は大きなチャンスだと思う。実際、当社の利益は過去数年にわたって伸びており、新聞の購読者も増えています。
その理由は、FTが他社と異なる戦略を取っているからです。われわれの戦略は、徹底したグローバル化です。同時に、他のメディア企業との大きな差別化を目指している。すなわち、自分たちはグローバルな情報ビジネスの専門家集団でありたいと考えているのです。
われわれのホームマーケットはイギリスですが、世界で初めて本国以外で成功した新聞メディアでもあります。まず、ヨーロッパ大陸版を発刊し、次に今から12年前にアメリカへ進出しました。私自身の実績としては、2003年にアジア版をつくり、昨年は中東判を発刊しました。私だけでなく会社全体がグローバル化に強くコミットしている。全霊を傾けていると言えます。
読者層である企業などの組織のシニアエグゼクティブ(上級幹部)は、信頼できるニュース分析を必要としています。たとえば、サブプライム問題が多方面に影響を与える中でイギリスの金融機関にも影響が及んだという情報については、FTの分析を求めていた。われわれはそうした要求に応えています。
――FTだけがグローバル化に成功した新聞メディアでしょうか。米国のウォールストリート・ジャーナル(WSJ)も世界に多くの読者を持っています。
WSJの戦略は、われわれとはまったく違うと思いますね。彼らの部数構成は、ホームマーケットの米国に偏っています。グローバルな視野で編集を行っているかどうか、という点でもFTとは違うと思う。
また、彼らの現在の戦略もよくわかりません。昨年7月にはニューズ・コーポレーションがWSJ(を発行するダウ・ジョーンズ社)を買収しました。しかし、その後のWSJの戦略は、私を含め誰も知らないのではないでしょうか。一方で、FTの戦略は明らかですし、しかもその戦略がうまく進んでいます。
過去には、確かにFTとWSJの二つのブランドが正面からぶつかっていました。しかし、競争の方法は昔と様変わりしています。経済メディアとして見た場合、決して2社だけがぶつかっているわけではなく、インターネットの普及などにより、新しい競合が次々に生まれています。競争状況の絵は、かつてよりも複雑になっています。